研究課題/領域番号 |
16K03618
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池下 研一郎 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (80363315)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | シュンペーター型成長モデル / 知的財産 / 競争政策 / 労働供給 |
研究実績の概要 |
当初の研究計画では平成29年度は1.「女性や高齢者の労働市場参加と経済成長に関する動学的分析」,2.「前年度までの研究成果の整理と発表」を行う計画だった。以下ではこれらの2点について実績の報告を行う。 まず第1の「女性や高齢者の労働市場参加と経済成長に関する動学的分析」については,女性や高齢者の自らの労働供給をどのように決定するのかという点について既存の理論研究を収集,分析した。また年度後半では,シュンペーター型成長モデルにどのように女性や高齢者の労働供給行動を組み込むことができるかという点でについてモデル分析を行った。単純なモデル分析の結果,女性の労働供給増大は,現時点でのイノベーションを活性化させるというプラスの効果を持つ一方で,将来の出生率を引き下げることで将来のイノベーションにマイナスの効果を持つということが明らかになった。この研究結果については,次年度以降国内学会等で報告し,論文の執筆を進める予定である。 次に第2の「前年度までの研究成果の整理と発表」については,平成28年度に行ったシュンペーター型成長モデルを用いた競争政策と経済成長に関する分析を整理し,論文の完成させた。この研究成果は"Campaign contributions and innovation in a fully-endogenous quality-ladder model"というタイトルで,Asia Pacific Journal of Regional Scienceの特集号"ECONOMIC ANALYSIS OF LAW, POLITICS, AND REGIONS"に掲載された。また国内学会や福岡エリアでの研究会,タイでの国際カンファレンスなどで研究報告を行うなどの形で成果発表を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では平成29年度は1.「女性や高齢者の労働市場参加と経済成長に関する動学的分析」,2.「前年度までの研究成果の整理と発表」を行う計画だった。 1については当初の計画通り,家計の労働供給に関連する文献の収集した。その後、理論モデルを用いた分析を行い,暫定的ではあるが女性や高齢者の労働供給行動を組み込んだシュンペーター型成長モデルを構築することができた。詳細な政策分析については未実施であるが,次年度以降十分に研究を行うことができる。また2については前年度までの成果を国際学術誌に発表し,また国内外の研究会やコンファレンスで報告することができた。実証研究との関連性や,他の競争政策に関する分析など,まだ検討すべきテーマは残っているが,「研究成果の整理と発表」という点で見ると,目的を達成したと言えるだろう。 これらの成果を当初の計画と照らし合わせると「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は予定計画の3年目であり,基本的には当初の研究計画通りに進めていく。 1.労働市場の摩擦と金融市場の不完全性の導入 前年度までの分析を踏まえ,シュンペーター型成長モデルを多部門化し,労働市場における摩擦の存在および金融市場における市場の不完全性といった要因が部門間の生産性の違いや動学的経路にどのような影響を与えるのかを分析する。これらの要因は従来のマクロモデルでも盛んに導入され,分析されているが,イノベーションや生産性との関係はまだ十分な理論的に解明されていない。そこでまずは労働経済,および金融分野にフォーカスしたマクロ経済学の論文を収集する。その後多部門化したシュンペーター型成長モデルにこれらの要素を導入し,成長経路に関する分析を行う。平成30年度後半では,これらの成果を論文にまとめ,国内の学会・研究会・ワークショップで報告し研究を深める。 2.研究の総括とその発信 平成30年度後半からは研究の総括および研究成果の発信に努める。具体的には海外で行われる国際コンファレンスにも参加し,研究活動の国際化を進めていく。またこれまでの研究成果を整理し,未発表のものについてはレフェリー付きジャーナルに投稿する。また30年度には経済成長理論を専門とする国内の研究者を九州大学に招聘し,研究会を開催し,研究成果について意見交換を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 当初,海外での成果発表に2回参加する予定であったが,私事で8月の国際会議に参加できなかった。また予定していた研究打ち合わせについても,勤務校である九州大学で行うことが多かった(外部研究者に九州大学まで来てもらうことが多かった)。これらの理由で旅費に対する支出が予定より大きく減少した。 (使用計画) 当初の研究計画通りに研究費を執行すると同時に,次年度使用額については以下の3つの目的での使用を計画している。第1にデータ文献収集や入力補助などの業務に関する大学院生への人件費として使用する。当初計画でもこれらの費目を計上していたが,効率的な教育・研究活動を行う上では,大学院生の協力が不可避と判断したので,アルバイト謝金の費目を大きく増やして,研究活動を効率化する。第2に国際会議での参加費として使用する。特に年度前半と後半にそれぞれ参加できるように調整する。第3に九州大学経済学研究院で開催されるワークショップの開催費用として使用する。九州大学経済学研究院では定期的にワークショップを行っているが,このワークショップに,本研究課題と関連する形で外部研究者を招聘し,議論を深め,研究をさらに活性化させたい。
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