当初の研究計画は2016~2018年度の3年間だったが,論文執筆の遅延が発生したこと,また学内業務の都合で国内学会や国際会議での成果報告を実現できなかったことから,研究期間を1年延長した。 2019年度は当初の計画通り,労働市場の不完全性を他部門化したシュンペーター型成長モデルに導入し,イノベーションや経済成長に与える影響を分析した。分析の結果,特に生産性が低く,賃金の低い産業から,生産性が高く賃金の高い産業に対して労働が瞬時に移動できないような状況では,イノベーションが活発化してもマクロ経済全体における生産性の向上スピードが緩やかになることを明らかにした。その一方でこのモデル分析では,労働市場の設定に不自然な点があり,現在この問題点を解決すべく,研究を継続中である。 また前年度に引き続き,生産技術の自動化に関する経済分析を行った。具体的にはAIやロボット技術といった自動化技術の進展が資本蓄積や所得分配に与える効果を動学モデルを用いて分析した。分析の結果,自動化技術の進展は,資本収益率を引き上げることで持続的な経済成長を実現する一方で,賃金を引き上げる効果は限られ,労働分配率を引き下げる効果があることを明らかにした。この結果は近年,先進国で見られる実質賃金上昇の鈍化,労働分配率の低下を統一的に説明するものであり,重要な意義を持つものと考えられる。この結果は "Automation and Economic Growth in a Task-based Neoclassical Growth Model"として論文にまとめられ,日本応用経済学会春季大会の推薦公演やクアラルンプールで開催された30th EBES Conferenceにて報告された。このテーマについては2020年度以降の科研費の研究課題として採択されたので,引き続き研究を行っていく。
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