研究課題/領域番号 |
16K03623
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高野 久紀 京都大学, 経済学研究科, 准教授 (40450548)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 欠乏 |
研究実績の概要 |
近年、貧困に関する心理学的な研究が進んでおり、Mullainathan and Shafir (2013)は、貧困者は、いつも目先の金策に集中せざるを得ないために、認知能力や実行制御力といった処理能力に負荷がかかり、間違った意思決定や衝動的な意思決定をしてしまいやすいという「欠乏の経済学」を主張している。また、別の研究では、貧困によるストレスのために、人々がリスク会費的になったり、長期的視野を持ちにくくなったりすることも明らかにされている。しかし一方で、成功者の逸話の中には貧困をモチベーションに変えて努力した人々の事例も多く、スポーツでは「ハングリー精神」の重要さが強調される。これは、欠乏が、そこから抜け出そうとする「渇望」を生み出し、自制心などの心理的バリアを克服して成功した事例と考えられる。そこで本研究では、欠乏が渇望を生み出す状況を明らかにし、貧困者の潜在能力が最大限発揮されるようなマインドセットを作り出すにはどのような方法が有効かを解明することを目標とする。バングラデシュにおいては、欠乏の問題を緩和する介入として、マイクロクレジットの返済期限を先送りする介入を実施した。これはちょうど締切間際でそれに過度に集中している人に対して、締切を先送りすることで欠乏の問題を回避しようとすることに相当している。また、ベトナムにおいては、地理的条件によって地域ごとに人々の渇望の程度が異なるという人々のインフォーマルな認識をもとに、渇望の程度が大きいと予測される地域において教育投資がより行われ、世代間のIncome mobilityがより高くなるかどうかを検証するために、地理的条件に関する情報を収集しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バングラデシュ北部におけるマイクロクレジット機関を通じた調査は順調に進んでおり、現在、調査と調査データのクリーニングがほぼ終わり、データ解析を始めたところである。また、ベトナムにおける調査では、欠乏と渇望の問題について地域的な文化的差異を考慮するために、全国的に行われたWorld Value SurveyとHousehold Living Standard Surveyとの地域的な接合を図っている。また、それ以外にも、ベトナムの過去50年間における自然災害のデータや気候データを収集しており、その範囲を広げているところである。
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今後の研究の推進方策 |
バングラデシュの調査に関しては、データの整備はほぼ終わったので、データ解析を引き続き行って論文を執筆する。また、ベトナムにおける調査で見ようとしている世代間のIncome mobilityに関しては、親世代の所得の正確な情報が分からないことから、その条件の下でも推定に伴うバイアスがコントロールできる手法を考案していく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度にベトナムで実施する介入の費用が若干大きいため、バングラデシュでの調査の質問表を短くすることで調査費用を節約し、フィールド調査も今年度実施予定のものを次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年8月~9月の間にベトナムで介入実験を実施する費用として使用する。
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