研究課題/領域番号 |
16K03628
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
吉田 雄一朗 広島大学, 国際協力研究科, 教授 (70339919)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 交通経済学 |
研究実績の概要 |
今年度は4本の論文をインパクトファクターつきジャーナルに公刊した。これら今年度の研究成果のうち、“Environmental Impact and Travel Time Savings of a New Monorail System in Colombo’s Commuting Traffic”では、スリランカコロンボ市で計画されているモノレールを導入した場合の通勤交通の時間費用ならびに炭酸ガス排出の変化を都市経済学のモデルを用いてシミュレーション分析した。“On the Discrepancy in the Social Efficiency Measures between Parametric and Non-Parametric Production Technology Identification,”では、環境負荷を伴う生産活動の効率性を測定する手法であるノンパラメトリックな距離感数アプローチが、パラメトリックな手法に比べて非効率性を過小評価しやすいことを示した。そのほかにも、“Airlines’ reaction to high-speed rail entries: Empirical study of the Northeast Asian market,”や“Does Institutional Failure Undermine the Physical Design Performances of Solar Water Pumping Systems in Rural Nepal?”など、本年度は、交通ネットワークと環境に関する研究を行った。また、”Spatial Econometric Analysis of Automobile and Motorcycle Tra c on Indonesian National Roads and Its Socio-Economic Determinants: Is It Local or Beyond City Boundaries?”は交通分野のインパクトファクターつきジャーナルへ投稿し、現在はファーストラウンドのリバイズ中である。また、本研究プロジェクトの中核をなす研究のひとつである”Impact of Low-cost Carriers on International Air Passenger Movements to and from Major Airports in Asia”は産業組織論の分野で国際的に評価の高いインパクトファクターつきジャーナルへのサブミットに向けて主たる分析を行い、得られた結果に基づいてマニュスクリプトを執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在いくつかのワーキングペーパがあるが、そのうち”Impact of Low-cost Carriers on International Air Passenger Movements to and from Major Airports in Asia”については、すでに幾つかの招待講演を実施したうえ、さらに今夏には国際学会での発表を予定している。この論文では、アジアが、世界で最も急速に成長している航空市場でありかつ現在ではこの地域が最も多くの低コストキャリア(LCC)を抱えていることに注目し、2010年および2015年の国際線航空旅客の予約データ(N =123,148)を使用して、アジアの30の主要空港を行き来する国際線旅客へのLCC参入の因果効果を明らかにしている。 LCCの参入決定の自己選択と観察不能な交絡因子から生じる内生性を回避するために、この論文では、差分の差分分析(DID)、DIDと結合した傾向スコアマッチング、確率的重み付け回帰調整DID、およびカットオフとして典型的にLCCによって使用される航空機の最大飛行範囲を設定したファジーRDDを含んだ複数の分析手法を用いている。すでに結果として、国際航空旅客の交通量に対するLCCの影響が厳密に正であり、距離に対してわずかな凸面を伴いつつ減少していることを一貫して明らかにしている。またもう一つの知見として、市場集中度を一定としてもLCC参入の効果が大きいこと、すなわちフルサービスキャリアを置き換えるようにLCCが参入することが、アジアの国際航空旅客移動を大きく増加させた要因であることをすでに明らかにしている点が以上の理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は上述した論文(”Impact of Low-cost Carriers on International Air Passenger Movements to and from Major Airports in Asia”)については、今夏に海外共同研究者との最終的な打ち合わせおよび最終稿作成を経たのち、産業組織論の分野において国際的に評価の高いインパクトジャーナルである、International Journal of Industrial OrganizationのAviation Industry Special Issueへの投稿を予定している。これと並行して、本研究プロジェクトにおける新たな研究テーマとして、メガハブネットワークのあり方について分析を進める。近年の航空自由化の流れは、中・長距離国際航空路線においてもネットワークの再編をもたらした。たとえば豪州地域と欧州の間では地域ハブを各大陸におく従来のハブ&スポーク型だけではなく、中東の主要都市をメガハブとする新たな大陸間国際航空ネットワークが台頭しつつある。こうした代替的なネットワーク形式にはそれぞれ長所と短所があり、国際航空産業に関わる多くのステークスホルダーにとってこれら国際航空ネットワークの各属性に対する需要の特性を正確に把握することは、航空・空港経営の観点からばかりでなくインフラ管理運営政策の観点からも極めて重要である。そこで本研究テーマにおいては、これら代替的な国際航空ネットワークのさまざまな属性に対する利用者の選好を新しいランダム化コンジョイントの手法を用いることにより詳細かつ正確に把握することをその目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外研究協力者などからの研究協力が得られたこと、また研究進捗が研究内容的にも研究費用的にも順調であったことなどの研究を進めるうえで順調な事象が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
今後はこれらの研究費を用いて、本研究プロジェクトの当初の予定のとおり、インパクトファクタージャーナルへの投稿を前提とした複数の論文の執筆を最終目標として、前述した新たな研究テーマについての研究をすすめていく。
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