研究実績の概要 |
1980年代以降の公企業の民営化の流れの中で,公企業と民間企業が競合する市場(混合市場)の分析が進んできた。近年の二国間あるいは多国間の貿易協定が協議されている状況から,経済環境が大きく変化する可能性がある。そこで本課題では,混合寡占市場において労働市場と金融市場を考慮するとともに,補助金政策などの経済政策面での経済環境の変化が,郵政事業や政府系金融機関などの公企業の民営化の程度に与える効果を検討することを目的として研究を進めてきた。 本年度は,京都,神戸,東京,彦根,大分での学会,研究会参加,資料収集,研究打合せを通じて研究を進め,以下のようなことかが明らかになった。 企業行動を分析する際には,外生変数として天候や自然災害,天然資源だけでなく,国内外の政治情勢や経済政策など経済環境の変化も重要な要因となる。そこで,複占競争に直面している企業の環境が,需要や費用に関する不確実性を考慮した場合に雇用量や賃金率にどのような影響が及ぶのかを検討した。分析手法として, Nakamura and Takami(2015)で提示される等総余剰曲線と反応曲線を用いた図解によるアプローチを採用した。 結果として,政府が民間企業の状況が不確実な状況で民営化比率を提示し,その民営化比率を確認した民間企業と公企業(民営化企業)が生産量を決定するというタイミングでの特定化された混合複占モデルの場合,シミュレーションの結果,政府にとっての民間企業の費用の不確実性は,最適民営化比率を上昇させる可能性があることが確認された。さらに,同じ枠組みで民間企業と公企業の双方に政府にとっての不確実性が存在する場合も,最適民営化比率を上昇させる可能性があることが確認された。一方,需要に不確実性がある場合は,最適民営化比率を減少させる可能性があることが確認された。
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