研究課題/領域番号 |
16K03635
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
太田 塁 横浜市立大学, 国際総合科学部(八景キャンパス), 准教授 (00338229)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ダンピング / 保護貿易 / 食品安全法 / イベントスタディ |
研究実績の概要 |
本年度は以下の研究を主に進めることができた。 1.アンチダンピングといった保護主義的な貿易政策の経済学的根拠の提示 発展途上国の急速な成長に裏打ちされたダンピング現象でも見られるように、先進経済には急速に衰退していく産業も多い。ダンピング現象は通常、国内生産者に損害を与える一方、安価で財を入手できる国内消費者にとって余剰が発生するため、全体の効果を知るためには両者の影響を比較考量する必要があり、一概に反ダンピング制度をサポートする議論は少ない。しかし、輸入の急増がある場合、自国製品に対する需要が急減し、そのことが国内製品の価格上昇をもたらすことで、消費者余剰は減少することを示した。本研究は”An import surge as a trigger for protectionism: A consumer’s perspective”(共同執筆者:矢野誠・京都大学教授、出井文男・神戸大学名誉教授)として、日本経済学会春季大会(2016年6月17日-18日、名古屋大学)とAsia Meeting of the Econometric Society(2016年8月9日-13日、同志社大学)で研究報告した。 2.中国の新食品安全法が中国企業の株価に与えた影響 製造物責任法といった製品に関する安全基準は、市場経済におけるより円滑な取引を行うために必要なインフラであり、各国の市場の質を決定する一要素と考えられる。そこで2015年10月に施行された中国の新しい食品安全法が資本市場に与えた影響を、イベントスタディ法を用いて分析した。9つの新法に関するニュースが株価に与えた影響を乳製品、食品やドリンクなど食品関連事業に従事している中国企業を対象に分析した結果、3つのニュースに対して頑健な負の影響を与えたことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究のテーマは、国際間における製品の質の違いやその変化が貿易を通じて国内経済に与える影響の分析である。具体的には、[1]新製品の輸入ラッシュによる国内市場の衰退と適切な産業政策のデザイン、[2]製品に対する安全基準の国際的整合性が国際貿易に与える影響、[3]原発事故後の被災県産農産物の取引の分析、から構成される。 研究[1]は理論研究を充実させたとともに、実証分析で用いるデータの整理(パソコンモニタ)を進めている。研究[2]については、中国の新食品安全法が中国企業の株価に与えた影響を分析することができた。また中国産食品の安全性が日本への輸出に与えた影響を見るため、貿易量以外データ(例えば、どの程度日本で中国産食品が報道されたかなど)を収集した。研究[3]に関しては、多くの農産物の取引データを収集することができた。 以上を踏まえ、今年度はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究[1]については、実証分析で用いるデータの整理(パソコンモニタ)を進めている。終わり次第、POSデータの強みを生かし、製品の特徴が価格などに与える影響をヘドニックアプローチで分析する。将来的には、その価格変化を含めて、質の変化が貿易を通じて市場での競争や参入・退出に及ぼした影響を考察する。 研究[2]については引き続き、データから得られる考察を基に、財への不信が引き起こす貿易量への変化を捉えられる理論モデルの開発に努める(例えば、財への不信感の持続性や他国からの代替輸入、他財への代替の程度のモデル化)。 研究[3]については、東日本大震災の前後を通じて、被災県で生産された農作物の価格・取引量の変化を分析する。まずは研究[1]と同様にヘドニックアプローチを活用し、財の特徴(特に生産地が被災県であるか否か)が価格に与えた影響を分析する。
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