研究課題/領域番号 |
16K03642
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研究機関 | 北九州市立大学 |
研究代表者 |
白石 麻保 北九州市立大学, 外国語学部, 教授 (40425004)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 金融仲介 / 中国 / 銀行融資 |
研究実績の概要 |
平成28年度の研究実績は以下のとおりである。 計画経済システム下にあるものの、国営企業やそれを管轄する地方政府の計画外行動を前提とした経済において、各経済主体の経済活動へのインセンティブの有無を検証した。それにより、各経済主体の経済活動へのインセンティブが発揮されていることが見出された。次にそのインセンティブの内容を実証的に明らかにした。そのために利潤、雇用、生産額を含む企業の複合目的関数の推定を行った。これより、企業は利潤以外に雇用や生産額、資金量に対するインセンティブを持つことが分かり、中国の計画経済期や改革開放初期においても国有(営)企業は擬似的な市場経済的行動を採用していたことが知見として得られた。これらの実証モデルを設定する際には、まず操業年数が相対的に長い企業が多く存在する地域において現地調査を行い、経験者らに当時の経験談を聞きつつ、当時を知る有識者らの意見を取り入れながら進めた。そして企業と地方政府の経済的インセンティブを検証するための作業仮説の構築を行った。その上で上述のような実証モデルの設定を行い推定を行った。また実証モデルの推定に際しては、地方政府のレベルの相違と企業行動の相違について、市レベルの企業と地方(市)政府、及び県レベルの企業と地方(県)政府の関係の相違、それらと関連する経済的インセンティブの差についても考慮仕入れながら行った。 以上を通じて、中国の計画経済は経済発展レベルが低かったために十分な資源配分ができないことより、地方政府や企業による現場での裁量が計画経済の円滑な運営に重要な役割を果たしたことが示された。 上述の実証分析結果については、これらを複数のデータを用いて分析結果の頑健性チェックを行った。以上は論文として取りまとめ、学会等で報告をおこなった。また投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目には、主として計画経済期の国営企業と地方政府が持つ経済的インセンティブ、及び改革開放初期におけるそれらの経済的インセンティブの内容とその背景を明らかにすることを目指していた。当時を知る学識経験者らにヒアリングも行うことができ、それをもとに仮説を構築することができた。また、実証モデルの分析においても幾つかの試行を通じて企業や地方政府が市場経済下のそれとは異なるものの経済的インセンティブや合理的行動が取られていたことを明らかにできた。 そしてこれらの知見の獲得を経て、現在につながる企業、地方政府のインセンティブの変容を今後分析していく際に、どのような点に注目していくかについても幾つかのアイディアを得ることができた。具体的には当初の想定にない民営企業も分析対象にとり入れつつ、国有企業と地方政府との関係と民営企業とそれとの関係の共通点、相違点を明らかにしていくことで、より広く企業ー政府間関係のバリエーションを捉えていく必要性を見出し、それを実証的にアプローチする方法について幾つかのアイディアをこれまでに得られた知見から得ることができた。 以上のように、2年目以降に実施予定の現在までの企業と地方政府との関係の変遷の実証分析にむけた準備が1年目の分析と得られた知見を通じて可能となった。以上より、研究の現在までの進捗状況を「(2)おおむね順調に進展している」と評価できると考えられ、上記のように区分した。
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今後の研究の推進方策 |
計画経済期や改革開放初期だけでなく、改革開放中期やそれ以降の現在までを視野にいれ、地方政府と国有企業の関係を維持するインセンティブの有無や強さを考察していく。具体的には、国有企業と政府との関係の強さの分析を試みる。そしてその際、企業の資金量とその調達ルートについて国有企業における流動資金量の高さや企業の効率性と銀行融資アクセス有無との関係を分析する。具体的に現段階で予定している推定は、銀行融資等へのアクセス状況と企業の業績の関係、及び資金アクセス状況と地方政府との関係をそれぞれ分析していく。 そのために実証モデルには国有企業における資金充足に関わる諸変数や銀行融資額のシェアを変数として採用するとともに、この実証モデルとは別に銀行アクセスを容易にする要因を企業の業績変数と政府との関係を分析するための実証モデルも採用する。その際には企業の業績を表す諸変数、地方政府との関係の強弱を示す代理変数を実証モデルに採用し、推定を行う。これらの複数の実証モデルの推定により、銀行融資の企業の資金量における重要性とそこへの地方政府の介入の重要性について検証する。モデルの設定に先立って現地調査も実施していく。 同時に、昨年得られた知見をもとにしたアイディアの一つとして、比較対象として民営企業についても同様の分析をこころみる。 これらによって得られた暫定結果を順次報告資料としてまとめ、国内外のセミナーや学会で報告を行っていく。そして得られたコメントを実証モデルや分析に反映させながら、論文としてまとめられるよう準備を始める。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定した海外での現地調査に、微細な遅れが生じたため次年度使用額が生じてしまった。これは、調査のコーディネートをお願いしている現地の研究協力者のスケジュールの都合で、予定していた調査期間を短縮せざるを得なかったためにおこったことで、次年度以降に挽回可能である。
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次年度使用額の使用計画 |
翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画には当初の予定から特段の大きな変更はない。現地の研究協力者と連携を図りながら、翌年度も現地調査を実施していく予定であり、購入予定の物品等についても大きな変更・増額は見込まれない予定である。
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