研究課題/領域番号 |
16K03651
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
遠藤 正寛 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (80281872)
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研究分担者 |
風神 佐知子 中京大学, 経済学部, 准教授 (00510851)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 企業・労働者接合データ / 賃金 / 貿易 / 所得格差 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、以下の3つの研究を行い、それぞれで論文をまとめ、学術雑誌に投稿した。①日本企業による輸出入がその企業で働く労働者の賃金に与えた影響。②日本への財の輸入が、その輸入財と競合する財を生産する国内企業の支払う賃金に与えた影響。③日本の貿易が国内製造業従事者の賃金格差に与えた影響。 ①については、「企業・労働者接合データ」を構築し、輸出入価格を用いて貿易額を実質化し、企業の中間財輸入や最終財輸出を操作変数法を用いて推計し、企業の対外取引が賃金に与えた影響を推計したところ、中間財の輸入が1%増加すると、単純労働者の月給や年収は約0.03%低下することが分かった。他方、ホワイトカラーの賃金はほとんど影響を受けなかった。輸出については、輸出が1%増加すると、単純労働者の年収は約0.05%上昇するが、ホワイトカラーの年収の増加幅は0.02%程度であった。輸出と輸入が賃金に与える影響はこのように対称的なので、2000年代における日本企業の対外取引の増加は、どの労働者の賃金も同じ程度増加させ、賃金格差を拡大させなかった。 ②については、平成28年度の分析手法を改善し、より妥当と思われる結果を得た。それによると、アジアからの製造業製品の輸入が1%増加すると、日本で競合財を生産する企業で支払われる年収は、小規模で生産性の低い企業約0.1%減少するが、大規模で生産性の高い企業では年収への影響はなかった。また、日本からの輸出が1%増加すると、企業の規模や生産性を問わず年収は増加し、小規模で生産性の低い企業ではそれは0.06%程度であった。 最後に③については、2000年代における日本の製造業従事者の賃金格差の変遷のうち、産業-規模-労働者スキルの違いで説明できる部分は、貿易がこの部分の賃金格差に与える影響によって良く説明できることを明らかにした。ただ、賃金格差の拡大幅は限定的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「順調に進展している」と判断する理由として、データ接続のプログラム化が終了したことと、分析結果が論文にまとまってきていることの2点を挙げる。 1点目については、本研究では政府から統計の二次利用を許可されたデータを多数用いているが、その接続に必要なプログラムがほぼ完成した。利用許可を得た統計は、経済産業省からは企業活動のデータである「企業活動基本調査」と「海外事業活動基本調査」、厚生労働省からは賃金のデータである「賃金構造基本統計調査」、総務省からは賃金データを企業データと接続するための情報がある「事業所統計調査」、「事業所・企業統計調査」、「経済センサス基礎調査」、そして「経済センサス活動調査」と多数であった。そして、これらを接続するプログラムの構築は時間を要する作業であったが、平成29年度内に完成した。 2点目については、「研究実績の概要」でも述べたように、平成29年度中に3本の論文がまとまり、学術雑誌に投稿できた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、日本の対外貿易が雇用や賃金に与える影響として、以下の側面を分析する。 1.日本の製造業製品の輸入が日本の製造業雇用をどの程度減少させているかを推計する。アメリカやドイツでの先行研究では、ある地域の雇用に占める製造業の割合が、輸入の増加によって低下するという結果を示している。この先行研究と異なる点として、本研究では分析を事業所ベースで行う。製造業雇用者数の変化の多くは、事業所の参入・退出に伴うものであり、継続事業所での雇用拡大・縮小ではない。そこで、貿易が地域の製造業雇用に与える影響について、事業所の参入・退出を通じた経路のインパクトを推計する。 2.ある企業の海外取引の開始が、その企業の労働者の賃金に与える影響を推計する。平成29年に行った分析では、すでに海外取引を行っている企業について、その企業の輸出・輸入の変化が賃金に与える影響を推計した。しかし、既存の国際化企業が貿易額を変化させることと、新たに企業が国際化することでは、賃金に与える影響は異なることが予想される。 3.ある企業の海外取引が、その企業と取引関係がある他の国内企業の賃金や雇用に与える影響を推計する。企業の国際化を懸念する声の1つに、国内取引が国際取引に置き換えられてしまい、国際化できない国内中小企業は規模が縮小し、廃業に追い込まれてしまうというものがある。その影響を実証分析によって明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成30年度に、海外旅費や英文校正費で比較的多くの支出が予想されたので、平成29年度中に使用可能な金額を全て使用することは控えた。 (使用計画)平成30年度は、海外旅費で1,000,000円、英文校正費400,000円の支出が見込まれる。
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