研究課題/領域番号 |
16K03651
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
遠藤 正寛 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (80281872)
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研究分担者 |
風神 佐知子 慶應義塾大学, 商学部(三田), 准教授 (00510851)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 輸入 / オフショアリング / 残業 / 労働時間 / 給与 / 開業 / 廃業 / 雇用 |
研究実績の概要 |
本年度は、1本の論文を英文学術雑誌(査読付き)に掲載し、他に3本の論文を英文学術雑誌(査読付き)に投稿した。これらの論文4本で、以下のことを明らかにした。 論文1:ある日本企業が生産に必要な原材料・部品を外国から購入するオフショアリングを拡大させると、その企業の労働者の所定内勤務時間は減少する。しかし、大卒労働者と男性労働者は残業時間を増やすので、その減少分が一部相殺される。これにより、残業代を含めた年間給与については、男性労働者と女性労働者の間で差が拡大する。 論文2:1996年から2016年の間に減少した日本の製造業雇用者数のうち、15%が中国からの輸入の増加によるものであると推計された。また、雇用者数の変化を事業所による雇用創出と雇用喪失に分けると、中国からの輸入増加によって、雇用創出は0.3%減少し、雇用喪失は5.3%増加した。 論文3:日本の製造業全事業所の、2006年から2016年までの雇用者数の変化、廃業、開業が、中国からの輸入によってどのように影響を受けたかを分析した。その結果、輸入増加が雇用者数に与える主な経路は、1つの事業所のみの企業であれば大規模事業所の廃業、複数の事業所を持つ企業であれば大規模存続事業所での雇用者数削減であることがわかった。 論文4:アジアからの輸入が増加すると、日本国内での最終財市場の競争激化を通じて、日本の製造業労働者の賃金を変化させる。労働者の賃金は、大規模事業所で上昇し、小規模事業所で下落する。技能や性別の違いも賃金に異なる影響を及ぼすが、企業の異質性による影響の方が大きい。 これらの研究成果は、日本における輸入の増加が国内の賃金や雇用に与える影響を多角的に計測したものであり、国際貿易の労働市場へのインパクトに関する人々の正しい理解を助ける。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度からの5年間の研究の成果として、2本の論文が英文学術雑誌(査読付き)に掲載され、他に3本の論文が現在英文学術雑誌(査読付き)で査読を受けている。研究期間の前半では、政府から貸与を受けた調査票情報を接続して本研究に用いるデータを整備したり、適切な説明変数や分析手法を選んで分析方針を確立したりするために多くの時間を要した。しかし、研究期間後半では、前半でのデータ整備や分析方針確立が実を結び、一連の研究成果を生み出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究を2つの面で拡張させる。 第1に、雇用や賃金を変化させる他の要因も同時に考慮する。この科学研究費助成事業による研究により、輸入が雇用や賃金に与える影響を、いくつかの経路で推計することができた。今後は、技術、需要、人口構造、社会的ショック(COVID-19感染拡大等)、国際貿易など、複数の要因を同時に考慮して、雇用や賃金の全変動を各要因に分解し、それぞれのインパクトを分析する。これは、どのような属性を持つ労働者が、どのような要因で、雇用を失ったり賃金が減少したりするのかを同定し、それに対する政策を立案するのに有用である。 第2に、この助成事業によって得られた一連の研究成果を体系的にまとめ、書籍として出版する。この助成事業によって、オフショアリングや輸入競争が賃金に与える影響、輸入競争が地域や産業の雇用に与える影響、輸入競争が事業所の開廃に与える影響が明らかになった。当然、これらの結果は相互に連関しているので、成果を体系的にまとめ、結果の有機的な連関を述べ、本研究全体の意義を高めた形で、事業の成果を社会に還元する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大のため、大学研究室への出勤をある程度自粛した結果、研究がやや遅れた。そのために2020年度予算にも残額が発生した。2021年度は、研究成果の出版に関わる費用(英文校閲等)にこの残額を充てる予定である。
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