本研究は2015年度「第4回全国イノベーション調査」の企業個票データと民間の信用調査会社の財務・企業情報を接合し、過去3年間の研究プロジェクトの中止・継続の決定が、新製品の実現確率・新製品の売上高比率を高めているのか検証している。分析の結果、プロジェクトを中止・継続した企業はそうでない企業と比べ、新製品の実現確率が約7%高く、売上高比率も約2%改善していた。プロジェクトの中止・継続の要因分析では、研究開発集約度および多様な外部知識の活用が正で大きなインパクトを有していた。負債比率は研究プロジェクトの中止・継続にマイナスに作用し、プロジェクト数を減らした小規模なイノベーション活動を行う可能性が確認された。 新規性の高い製品・サービスの創出は、企業成長を高めるだけでなく、日本の技術水準の底上げに貢献する。本研究ではイノベーションの成功と研究プロジェクト管理に焦点をあてた。得られた結果から、中途成果物によって投資の継続・中断を判断する方が、新規性の高い製品・サービスの創出を促すことがわかった。また、組織の在り方も重要で、一度はじめたプロジェクトの中止を嫌がる組織では、プロジェクトの開始時点で不確実性の低いプロジェクトのみでポートフォリオを構成するようになることから、新規性の高いプロジェクトが創出されにくくなる。イノベーションは不確実性を伴う活動であるえが、中止を許容できる組織の在り方、プロジェクトを管理するための資金・資源の管理法の重要性が分析結果から示唆される。 分析結果はRIETIのディスカッションペーパー検討会で2019年4月に報告をし、コメントを反映して修正を加えている(6月には公刊予定である)。その後、NISTEPのディスカッションペーパーとしても公刊を予定している。
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