研究課題/領域番号 |
16K03665
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中村 靖彦 日本大学, 経済学部, 教授 (90453977)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 寡占市場 / 価格競争 / 数量競争 / 経営委任 / 経済政策 / 経済理論 |
研究実績の概要 |
令和元年の研究においては,次のような方向性を持つ研究について考察した:所有と経営が分離した混合寡占市場において,社会厚生の最大化という目的を持つ公企業と利潤最大化を目指す私企業が,各企業内で所有者と経営者の間で締結される経営委任契約の内容を決定する時点を選択する状況を考察した。このとき,企業構造を長期的な視点で考察するという観点を重要視し,経営委任契約を決定する時点もしくは各企業の競争戦略(価格または数量)の水準を決定する時点とともに,市場で競争する際の戦略として価格と数量のどちらかを選択することができる状況を考察した。ここで,公企業内で締結される経営委任契約の方式は,Fershtman and Judd (1987,Am Econ Rev 77:927-940)またはNakamura (2015,Int Rev Econ Finance 35:262-277)に基づくものとする。前者は,公企業内での経営委任契約が利潤と収入の凸結合として表現され,後者は,公企業内での経営委任契約は目的である社会厚生と消費者余剰と生産者余剰の差の加重和で表現されるものと仮定される。上のタイプの研究は,経営委任契約を決定する時点もしくは各企業の競争戦略(価格または数量)の水準を決定する時点という二つの選択肢が存在し,さらに,公企業内で所有者と経営者が締結する経営委任契約が2タイプ存在することを考慮すると,全体で4種類のモデルがあり得る。当然,4種類のモデルにおいては,特徴の異なる市場形態が均衡となり,ゆえに企業利潤的な観点からの均衡の最適性ならびに社会厚生的な観点からの最適性の両面からも非常に興味深い結果を生んだ。これらの研究は,令和元年度において4種類がすべて完成し,国際査読付き雑誌への掲載を勝ち取ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和元年度は,所有と経営が分離した混合寡占市場において,社会厚生の最大化という目的を持つ公企業と利潤最大化を目指す私企業が,各企業内で所有者と経営者の間で締結される経営委任契約の内容を決定する時点を選択するタイプのゲーム理論的研究を終了させた。しかしながら,「消費者がいつ企業の生産する財間のネットワークに関して期待を形成するのか,という『消費者の期待形成のタイミング』が上の研究の結果に大きな影響を与えることに気が付いた。そこで申請者は,それに関する論文に取り組み,ある程度の確信をもって国際査読付き雑誌へと投稿したが,掲載を勝ち取るまでには至らなかった。上記の点を考慮して,「(3)やや遅れている。」という評価を下した。「今後の研究の推進策」の欄で詳細に記入するが,令和2年度の研究においては,上記の研究に関して可及的速やかに国際査読付雑誌に掲載できる努力を講じたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において,消費者のネットワークに関する期待形成のタイミングが企業行動に著しい影響を与えることが明らかになった。そこで,令和2年度の研究においては,ネットワーク効果を内包した,各企業内において所有と経営とが分離した寡占的産業において,「消費者の各企業の生産する財の間に存在するネットワーク効果の程度」に関する期待形成のタイミングが,企業所有者によって提示される経営契約内容に応じて変化する経営者の市場競争における態度に対して,どのような影響を与えるかを考察する所存である。本研究において,消費者のネットワークに関する期待形成のタイミングに関しては,次の4つに分類される:消費者の企業の財の間に存在するネットワーク効果に対する期待形成のタイミングが, 1.企業所有者の各経営者の契約の内容の決定に先んじて行われる。 2.企業所有者の各経営者の契約の内容の決定時に行われる。 3.経営者による企業間競争に先んじて行われる。 4.経営者による企業間競争時に行われる。 上記4通りの消費者の期待形成のタイミングの変化によって,経営者の市場における態度がどのように変化するかを分析する。この分析においては,1。価格競争,2。数量競争,3。各企業の戦略が非対称な競争の3通りに分類して考察する予定である。これらの考察が終わり次第,各企業の戦略を内生化した考察も行う予定である。この考察によって,上記の研究においては,固定されていた各企業の戦略の決定まで問題にすることができるため,消費者のネットワーク効果の程度に関する期待の決定方法に応じて,どのような市場形態が均衡にいて成立するかを考察することが可能となる。本年度中にこれらの分析を終えたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は29,519円で,この残額分は令和元年度の研究における英文校正費に由来するものである。これは令和2年度の研究において英文校正費として支出される予定である。当然,令和2年度の研究計画に大幅な研究計画の変更はない。
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