研究課題/領域番号 |
16K03672
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
市田 敏啓 早稲田大学, 商学学術院, 准教授 (80398932)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 特許政策 / 比較優位 / 多次元異質性 / 模倣費用 / イノベーション費用 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、各国の特許政策の違いがどのようにして国の比較優位に差を生み出すかについて、多次元の異質性モデルを用いた経済学理論から検討する。 本研究では潜在的に特許を申請できる新しい技術上のアイディアが模倣費用とイノベーション費用の2次元において異質に分布している場合を考察する。そのような2次元異質性分布は、産業や製品の持つ生来の性質としての技術的費用と、国が特許政策を用いて事後的に追加する政策的費用の合計が組み合わさって生成されるものと考えられる。特許政策が国によって異なると、政策実施後の異質性の分布も異なり、結果として、発明されやすい製品とそうでない製品とが異なってくる。本研究では、いかなる特許政策の違いが国による製品の比較優位を形作るかのフレームワークを提示して、我が国の特許政策のあり方に関する指針を提示することを目的としている。 特許制度には、独自の技術を保護する目的とそれを公開して応用した研究を促す役割の二つがある。後者では技術的な詳細を後続研究者にひろく知らせるために、費用をかけて独自技術を模倣しようとするケースは後をたえず、問題となっている。先行研究では、こうした模倣が存在するときの特許政策について特許期間の「長さ」と特許を認める際の法律上の定義の「広さ」の2つの変数について考察を加えたきた。しかしながら、オリジナルの製品開発のイノベーション費用と類似品の開発費用である模倣費用との2変数で分析した先行研究は研究代表者の知る限りでは存在しない。 また、先行研究では異なる模倣費用に対応する最適な特許政策を分析したものはあるが、イノベーション費用の異質性をも同時に分析したものは存在しない。本研究では、模倣費用の異質性と同時に、イノベーション費用の異質性を分析することで最適な特許政策を2次元の空間に表現することを目的としている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、本研究に関連の深い、経済理論・国際貿易・知的財産権に関連する文献資料を収集し、また、関連する分野の学会に参加して学術資料を入手し、先行研究及び関連研究の整理及び再検討を行う予定だった。いくつかのネットワークで入手可能な論文などは入手できているのだが、Stephen Maurer著の新刊書籍の出版予定が昨年夏から遅れており、現在も未発行で、現在それが入手できていないためにその部分のサーベイが遅れている。 また、連携研究者の関西学院大学経済学部教授東田啓作氏と相談しながら、既存研究のまとめを行う予定であったので、金沢星稜大学にて10月1日朝から2日午後まで開かれた第8回国際経済・産業ゼミナールにともに参会した。そこでは、若手の国際経済学と産業組織論の研究者の研究発表を聞き、それらの論文の議論に時間を費やしてしまい、充分に共同研究の打ち合わせが進まなかった。 その反面で、2016年12月2日~3日(金~土)にパーデュー大学にて開かれたMidwest International Economics Group Meeting 学会に参会してImitation versus Innovation Costs: Patent Policies under Common Patent Lengthの論文発表を行った。さらに、学会の空き時間にアイオワ大学名誉教授レイモンド・リーツマン教授と論文投稿について打ち合わせをすることができた。また、2016年12月4~5日(日~月)にはコロンビア大学にてフィンドレー名誉教授(午前中)とニュースクール大学にてサンジェイ・レディ准教授(午後)と特許政策について研究打ち合わせを行うことができ、新たな研究の方向性を見つけることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、3年間の研究期間において、新しい技術上のアイディアが模倣費用とイノベーション費用の2次元において異質に分布しているモデルを構築し、特許政策が国の産業の比較優位に与える影響を分析する。すでに基本モデルの原形はセットアップ化されているので、それをもとに発展させ、理論的な比較静学やさらなる理論の精緻化などを行っていきたい。これにより、特許政策が国際貿易に与える影響に対するフレームワークを提示し、我が国の特許政策と産業政策への指針を示すことができると期待される。 そのために今後は、これまで集めたものとこれからの資料収集・整理を踏まえ、理論モデルを構築して、分析を行っていく予定である。理論モデルを分析する際には、必要に応じて数値計算やシミュレーションによる解析も行っていきたい。ある程度モデルの結果が出たら、連携研究者の関西学院大学経済学部教授東田啓作氏と何度か集まってディスカッションを行う。その後、分析結果・ディスカッションに基づき、学術論文を作成する。論文はディスカッションペーパー(DP)の形で随時Social Science Research Network (SSRN)等を通じて発表する。 研究成果発表は途中の段階でも早いうちに積極的に行う予定である。発表の場としては研究代表者が参加している名古屋国際経済研究会や連携研究者が主催しているHITS-MJT(一橋大学出身若手貿易研究者グループ)セミナーを考えている。公式な学会と異なり、これらの研究会では論文の完成度にこだわらず研究のアイディアを中心に討論が行われるので、分析の方向性を明らかにするうえで示唆に富むコメントを参加者から得ることが期待できる。 最終的には、英文学術雑誌に論文を投稿して掲載することを目的としている。そのために、本年度は国際的な学会にも論文草稿を研究発表するために海外学会出張も行っていきたい。
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