研究課題/領域番号 |
16K03677
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
太田代 幸雄 南山大学, 経済学部, 准教授 (30313969)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 動学的国際貿易理論 / 内生的出生率 / 国際間労働移動 / 国際貿易パターン / 失業 / 人的資本 / 比較優位 / 国際貿易政策 |
研究実績の概要 |
これまでの国際貿易理論では,国際貿易パターンに影響を及ぼす要因は,静学理論においては固定された生産要素賦存比率,すなわち各経済に存在する資本設備・人口(あるいは労働力)・土地などの比率によって決定されると考えられてきた。また,動学理論においても,人々の投資活動を通じて,経済における資本設備が変化することにより生産要素比率が変化するという側面は解明されてきたが,依然として人口の増加に関する側面は分析されてこなかった。さらに,人口増加に関して,国内における出生率の変化だけでなく,諸外国からの人口移動のような状況も考慮に入れつつ,理論展開することを本研究課題の目的としている。本研究課題の1年目ということで,本研究課題テーマに関連する,既存の国際貿易理論の流れを整理し,新たな理論構築に向けて,どのような要因が重要であるかを提示することから研究を始めた。また,本研究課題の理論が,現実に対してどれだけの説明力を持っているかについても,併せて検討した。
昨年度モデル構築した論文“Fair Wages and International Trade in the Dynamic Heckscher-Ohlin Model”では,労働者の失業が経済活動に影響を及ぼすような構造を持つ2国経済を仮定して,人口成長率の違いに応じて長期的な国際貿易パターンや失業率がどのような影響を及ぼすかを分析できるような動学的国際貿易モデルを定式化した。具体的な分析内容としては,長期均衡の存在・一意性・安定性に関する分析を行った後,両国における人口成長率が貿易パターン等にどのような影響を与えるかについて検証した。この論文は,現在,学会発表・学術論文雑誌への投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究計画は,「研究期間3年間の計画」を俯瞰し,既存の理論に関する特徴・改善点を整理することが重要な目標の1つであった。連携研究者と詳細な打ち合わせを行い,新たな理論構築に向けて,どのような要因が重要であるかについて検討した。
さらに,考察対象になっていなかった経済における人口構造,あるいはその変化と社会的な生産・国際貿易パターンを結びつけるという意味で,近年構築した経済における出生率の内生化を導入したモデルKarasawa-Ohtashiro and Yanase (2011)に加えて,経済における失業も考慮に入れた動学的国際貿易モデルを構築した。このような設定の下で,人々が自らの人的資本に投資するような状況を考えることでより現実に即した理論構築も可能になる。経済学で用いられるツール・ロジックにより,上記の問題意識を加味した自由貿易下における長期均衡を解明するというのが平成28年度における最も重要な試みであったため,先進国/途上国にそれぞれ見られる人口構造と国際貿易パターンとの実際の関連性についても検討を加えた。
以上の内容から,当初の目的をほぼ遂行できたと考えているため,以後,モデルの完成度をより高め,海外の研究論文雑誌に投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には,前年度に構築した国際経済モデルに対して,「諸外国からの,あるいは自国からの人口移動」という,静学的国際貿易理論においてスタンダードな設定を動学モデルの下で再考察する。既存の国際貿易理論において,例えば静学的分析では,閉鎖経済が労働市場を国際的に開放することにより,人々は複数の国における賃金水準や移動にかかるコストに応じて国際間を移動する設定が広く知られている。このような性質は,異時点間の問題を対象とする動学的分析においても頑健であるだろうか? また,動学分析においては,しばしば人々の教育を通じて蓄積される人的資本の存在が考察対象に挙げられるが,熟練労働者と未熟練労働者のいずれが多く移動してくるかによって,経済構造は大きく変化する可能性がある。このような状況下で国際経済における長期的均衡はどのように変化するであろうか? さらに,労働力が増加する際に,国内出生率の上昇によるのか,あるいは(出生率は低いが)海外からの人口移動によるのかに応じて,経済の均衡がどのように変化するのか等についても分析を行う。
本研究の締めくくりとして,平成30年度は,平成28年度・29年度に行った研究をさらに精緻化する。理論モデルを構築した後に,さらに必要となる情報が明確になることも多い。理論モデルの分析と並行して,追加資料の収集やその整理を行う。このような追加の調査は,現実に即した,そして精度の高い分析を行うために不可欠である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は,シミュレーション分析用ソフトウェアを購入する予定であったが,数値解析よりも優先して理論モデル構築・実証データの収集等を進めたため,未購入であり残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度,改めてシミュレーション分析用ソフトウェアを購入する予定である。
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