研究課題/領域番号 |
16K03685
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
國枝 卓真 関西学院大学, 経済学部, 准教授 (60511516)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 経済成長 / 内生的景気変動 |
研究実績の概要 |
2018年度は、これまで構築してきた内生的景気変動を分析するための基本的モデルをさらに拡張した。これに加えて、海外の著名な研究者と中位所得の罠に関する共同研究を開始し、また国内の新しい共同研究者と経済成長に関する実証研究も開始した。 内生的景気変動に関する2018年度の一つ目の論文では、二部門動学的一般均衡モデルを用いて、信用制約と生産の外部性に直面した閉鎖経済を分析した。そこでは、中間財部門が社会的な見地からは資本集約的だが民間的見地からは労働集約的であるとき、信用制約が厳しいと均衡は唯一に決まるが、信用制約が緩いと均衡の非決定性が生じるということが示された。内生的景気変動に関する二つ目の論文は、失業とバブルの関係を分析するために昨年度構築した無限期間生きる経済主体のモデルを、バブルがはじけることなく内生的な景気循環が生じるようなモデルに拡張した。具体的には、昨年度構築したモデルから失業の分析を捨象して、代替の弾力性が一定な生産関数を導入することにより、バブルが生じたままの内生的景気循環のモデルを構築することができた。 中位所得の罠に関する研究は現在進行中であり、知識資本の生産部門に技術選択を導入することにより、均衡で複数の中位所得の罠が発生するような動学的一般均衡モデルを構築した。このモデルでは現実のデータを用いてパラメータをカリブレートすることが比較的容易にできるので、各国において、どのようなタイミングで中位所得の罠に陥ってしまったのかを分析できる点が新しい。 経済成長の実証研究では、従来のソローモデルをベースとした成長モデルに、技術の国際的な伝播の影響を導入して、そのモデルを直接回帰分析することを試みている。この研究も現在進行中で、この推定により東アジア諸国の成長パターンを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度と同様に、本研究プロジェクトは予定通り順調に進展している。2018年度は、開放経済の分析も引き続き行ったが、閉鎖経済の分析で新しい結果が出たので、そちらのほうを先に論文にまとめて出版した。先行研究では、二部門動学的一般均衡モデルにおいて、中間財部門が社会的な見地からは資本集約的であるけれども民間的見地からは労働集約的であるときには、均衡は非決定になるということが示されていたが、そこでは信用制約は考慮されていなかった。今年度の論文では、信用制約をモデルに導入することにより、信用制約が生産の外部性の働きに作用して均衡の決定性に影響を及ぼす、ということが示されたことが新しい点である。 今年度は当初の予定通り、理論分析に加えて、実証分析も開始した。現在のところ実証分析は二つ行っており、一つは海外の研究者の共同研究で、中位所得国の罠に関する研究である。この研究では、知識生産部門に技術選択を導入した動学的一般均衡モデルを構築して、均衡において複数の中位所得国の罠が出てくるような理論モデルを構築した。その上で、各国の現実のデータを用いてモデルのパラメータをカリブレートして、どのタイミングで、どのような要因で中位所得の罠に陥ったかを分析することを試みている。この研究は現在進行中である。もう一つの実証研究は、東アジア諸国の成長パターンを明らかにすることが目的の研究で、従来のソローモデルに国際的な技術の伝播を導入してモデルを再構築し、それを直接回帰分析していくという方法をとっている。この研究も現在進行中である。この二つの実証研究を通して、本プロジェクトの当初の目的であった国際的な政策協調の分析を行うことが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は、今年度までと同じく金融市場の不完全性を導入した二部門一般均衡モデルで開放経済の分析をしていくことに加え、閉鎖経済の分析でも新しい結果がでそうであるので、その結果も論文にまとめていく予定である。2017年度と2018年度の研究推進方策で、経済主体の国際金融市場での借り入れ・貸し出し行動が、貿易パターンの決定に及ぼす影響を分析していくと述べた。この分析も引き続き行っており、現在進行中である。他の研究結果のほうが先に出たため、それらを本年度まで論文にまとめていたので、この研究は来年度まで持ち越すことに決めた。 理論分析に加え、今年度は実証分析も開始した。二つの実証分析では、一定の結果が得られており、2019年度にはこの結果をまとめて論文を完成させていく予定である。特に、中位所得国の罠の研究は、共同研究者による来年度の国際学会での報告が決定しており、そこで得られるフィードバックも元に論文の完成度を高めていく予定でいる。また、この研究は様々な方向に拡張が可能であるということが共同研究者間で議論されており、例えば、知識資本の生産部門だけではなく、物的資本の生産部門にも技術選択を導入すると、さらにさまざまな要因による中位所得の罠が生じることになるので、この拡張したモデルのパラメータもカリブレートすることにより、基本モデルよりも詳細な中位所得国の罠の要因を分析できることが期待される。このような分析も、2019年度には行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、研究旅費、物品費、人件費の支払いの点で、当初の計画よりも効率的に研究費を運用することができた。次年度使用分を、2019年度に予定している数回の国際学会の参加と研究集会の開催に充当する予定である。
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