研究課題/領域番号 |
16K03695
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日原 勝也 東京大学, 大学院公共政策学連携研究部・教育部, 客員研究員 (70526673)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 契約理論 / プリンシパルエージェント理論 / 交通政策 |
研究実績の概要 |
航空会社と空港の間の関係は、対立関係と協調関係が共存する複雑で多面的な構造であり、交通経済学、契約理論、ゲーム理論等の観点から興味深い。欧米でも、LCCが躍進する中、空港との間で収入リスクをカバーする契約が結ばれ、交通ミクロ経済学の視点から分析が開始され(Oum and Fu (2011)等)ており、競争政策上の課題等についても議論がなされている(ECガイドライン2008)。 我が国でも、地方空港が航空会社と路線収入のリスクを分配する契約例が現れ(能登空港搭乗率保証契約(2003~)等)、政策上も、国交省が、羽田空港の発着枠の配分において、地方路線向け発着枠配分につき、両者のリスクシェア等の協調内容を加味する事態も生じている(2012~)。 本研究は、空港と航空会社のリスク分配契約に関する既往の研究成果(1対1の単純なリスク分配契約の最適線形契約の内容、厚生上の好影響等)を踏まえ、より一般的な状況(多期間の交渉、ネットワーク構造の加味等)へ分析の拡張を試るものである。 平成28年度においては、初年度として、リスクシェア理論の研究一般の状況を改めてサーベイし、航空・交通セクターのみならず、製造業、流通業、不動産業、インフラ投資(PPP他)等の分野において、リスク分配の機能を有する契約等の分権的なメカニズムについて整理した。また、航空分野における既往研究のうち、不完備契約理論、プリンシパルエージェント理論の応用等に関する知見について、特徴・課題等を、他分野におけるリスク分配の実態等と比較しつつ、厚生上の効果、ネットワーク維持の政策上の意義等を整理した。こうした内容を、当該分野における先端研究を収録する、専門学術書(査読付き)1章としてまとめ、刊行のため、原稿を提出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において、研究のより一般化のため、関連分野との関係の整理、学術的な知見の整理等の最低限の作業は進展してきているところ。次年度以降、こうした内容を踏まえ、また、これまでの成果もよく分析しつつ、より具体的な研究の進展を図ってゆく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の成果も十分に踏まえ、次年度以降については、より一般化等を試みる。具体的には、契約理論、サプライチェーンマネジメントの分野等において、複数当事者間による交渉の理論的な研究が進んでおり(Lu and Feng (2012)等)、また、契約の交渉過程についても、多期間についての交渉を動的な確率ゲームとして、理論的な定式化(Abreu and Pearce (2013、2015))がなされていることから、これら知見に基づき、航空分野におけるリスク分配契約への応用が現実に考慮できる状況にあると考える。こうした先駆的な研究も踏まえ、航空分野における実体を加味しつつ、当面、単純ケースから2~3の航空会社対1空港の関係について、価格、路線ネットワークへの影響等を対象に、どの程度の一般的な結論が得られるか分析を試みる。 次に、単純ケースから航空会社、空港管理者、空港内営業者の3面関係に拡張し、価格、路線ネットワークへの影響等を分析する。また、単純な1回交渉の契約構造の分析を、多数回交渉による契約に拡張して、動的な確率ゲーム、不完備契約等の枠組みを応用し分析することを試みる。このような研究は、契約理論他で進んでおり、ネットワーク構造を有する航空分野に適用すべき時期に来ていると考える。前述のとおり、実際、国交省も、羽田空港の発着枠配分において、航空会社に自治体とのリスクシェア契約に基づく路線運営の提案を配分決定の参考にしている。公共政策上の意義についても視野に、分析・研究を進めることとする。
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