『就業構造基本調査』によると、毎年約10万人が介護離職している。しかし別の職場に変わったり、介護終了により再就職する者もいる。そのため、介護離職による労働市場からの退出者はこれまで不明であった。本研究では、生存解析の手法を用いることで、介護離職者の就業再開率を求め、それを基に労働市場からの退出者数を推計した。それによると、離職後24ヵ月時点の就業再開率は35.6%であり、9.9万人の離職者のうち63.7万人が労働市場から退出していた。介護離職と全離職を比較すると、前者が後者に占める割合は、全年齢の離職率では1.8%であった。しかし、介護離職者の就業再開率は全離職者より低いので、労働市場からの退出者における割合は3.6%である。さらに、介護離職者が多い45-64歳ではその割合は8.3-7.4%である。次に、介護離職による逸失賃金を推計した。先行研究では、一般の労働者の平均賃金を用いている。しかし介護をしながら働いている者の賃金は、一般の労働者より低いので過大推計となる。本研究では週6日以上介護している労働者の賃金を介護離職者の属性で補足したものを介護離職者の離職前賃金として逸失賃金を計算した。それによると、離職後一年間の逸失賃金は17961億円、二年間では3391億円であった。介護離職の推移が定常である場合、年間の介護離職による逸失賃金は3391億円ということになる。逸失賃金の内訳を就業率の低下と賃金の低下に要因分解した。就業率の低下は就業再開できなかったことによる就業者数の減少によるものである。それによると、全体では77.7%が就業率の低下、残りは就業再開後の賃金下落によるものであった。賃金下落の割合は前職の雇用形態によって異なり、前職が正規雇用の方が前職正規雇用以外より大きかった。
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