本研究計画の最終年であり、構築したデータベースを用いて計量分析を行い、”Electoral Reform and Individual-oriented Campaign: An Evidence on Candidates' Name Promotion in Tokyo”と題する論文にまとめた。この論文では、研究代表者が構築した1977~2014年の衆参両院の東京都選挙区の選挙公報のデータを用いて、候補者の名前アピールについて分析した。 かつて、日本の衆院選挙で採用された中選挙区制では、過半数の議席を獲得するためには、一つの選挙区で同一政党(とりわけ自民党)から複数の候補者が立候補した。そのため、当選には他政党の候補者よりも自分の所属政党の他候補者との差別化が求められた。その結果、政党名や政党の政策よりも、個人名や個人業績のアピールに力点が置かれ、候補者本位の選挙運動が行われたとされる。もし、これが正しいとすると、小選挙区制へ移行したことにより、個人間競争より政党間競争へシフトしていくことになるはずである。候補者個人より所属政党をよりアピールする政党本位の選挙が行われることになる。 そこで、本論文では候補者が「選挙公報」で、1)自分の名前を大きく強調したか、2)自分の名前を何回表記したかに注目して、選挙制度変更の前後で、変化が見られたかどうかを検証した。1)と2)のどちらでみても、小選挙区制導入後では、衆議院では名前アピールは減少しており、政党中心の選挙が進んだように見える。しかし、制度の変更のなかった参議院では、候補者の名前アピールが1996年以降大きく減少している。そのため、衆参両院で差の差推定を行うと、むしろ、衆議院では候補者の名前アピールが強まっているという結果を得た。これは候補者本位の選挙運動が衆院では未だ根強く残っていることを示唆している。
|