研究課題/領域番号 |
16K03710
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
宮里 尚三 日本大学, 経済学部, 教授 (60399532)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 幼児死亡 / 救急救命センター / 距離 |
研究実績の概要 |
本研究では幼児死亡と救急医療体制との関係について研究を行っている。我が国の年齢別死亡率は、ほとんどのカテゴリーにおいて低い値である。しかしながら1歳から5歳までの年齢に関しては他の先進諸国に比べ高い死亡率となっている。本研究では、市区町村レベルのデータや個票データを用いて幼児死亡と救急医療体制、特に救急救命センターまでの距離との関係について考察を深める。本年度は主に回帰分析のためのデータの整備を行った。まず、市区町村別の幼児死亡率は幼児死亡者数、幼児数が必要であるが、それらは『人口動態調査』、『国勢調査』から得ている。一方、救急救命センターの立地については、厚生労働省『医療施設調査』や日本救急医学会の情報等から得ることにした。さらに、地域の社会・経済状況をコントロール変数として用いるが、地域の社会・経済状況には総務省『社会・人口統計体系 市区町村基礎データ』を用いる。それらのデータを整備・加工を行った。それらのデータ整備を行ったうえで、本年度は推定モデルの吟味も行った。本研究の分析の主眼である救急救命センターまでの距離と幼児死亡との関係であるが、距離については救急救命センターの緯度と経度の情報より算出した。回帰分析では、被説明変数を市区町村別幼児死亡率または死亡者数(具体的には0歳、1歳~4歳、5歳~9歳の各死亡率または各死亡者数)とし、説明変数に市区町村別の市区町村役場を起点とした救急救命センターまでの距離を用いて分析を行った。現時点での推定結果では、首都圏の市区町村の全データを用いた場合は、救急救命センターまでの距離と幼児死亡に正の相関が明確に確認はできない。一方、地域の子供の数が2000人以上の市区町村を用いたサブ・サンプルの分析では救急救命センターまでの距離と幼児死亡に正の相関が統計的に有意に確認できるという結果になっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はデータ整備を行うとともに、推定モデルの吟味も行った。基本の推定モデルは被説明変数に、幼児死亡率または幼児死亡者数を用いる。説明変数には、市区町村別の市区町村役場を起点とした救急救命センターまでの距離を用いる。また、市区町村別の属性をコントロール変数として用いる。本研究では市区町村別の属性を表す変数として総務省『社会・人口統計体系 市区町村基礎データ』にある各市区町村別の病院数、医師数、課税対象所得、大卒者数、幼稚園数、保育園数、小学校数、財政力指数などを用いた。さらに、救急医療以外の医療供給体制も幼児死亡に影響を与えることから、一人当たりの病院数や医師数を説明変数に加えた。また、親側の要因も幼児死亡に影響を与える。そこで、親の所得や学歴の変数として、一人当たり課税対象所得と地域の大卒者割合を説明変数に加えた。さらに、子供の安全性には幼稚園や保育園、小学校の先生の役割も少なくない。そこで、一人当たり幼稚園数、保育園数、小学校数を説明変数に加えた。最後に、各地方自治体の子供への安全対策は自治体の財政状況が良ければ、安全対策も十分に行われると考えられる。そこで、各自治体の財政力指数も説明変数に加えた。それらの変数を基本として回帰分析を行った。なお、回帰分析ではステップワイズ法なども用いて、どの変数が幼児死亡に大きく影響を与えるかの分析も行った。現時点での回帰分析の結果では、首都圏の市区町村の全データを用いた場合、救急救命センターまでの距離と幼児死亡に正の相関が明確に確認できない結果となっている。一方、地域の子供の数が2000人以上の市区町村を用いたサブ・サンプルの分析では救急救命センターまでの距離と幼児死亡に正の相関が統計的に有意に確認できる結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の2年目以降は、初年度の研究をより発展させるように進める。具体的には研究の初期段階として首都圏に絞った分析対象を全国の市区町村のデータで分析を行う。そのことにより、首都圏だけではなく、全国レベルでの救急救命センターの立地と幼児死亡についての詳細な分析を行うことができる。さらに、2年目以降は個票データも用いながら分析を行う予定である。個票データを用いる利点は、救急救命センターとしての設立や指定を受けた時期が明確になる点にある。既存の集計データでは全国の救急救命センターの設立時期や指定時期について、明確に分かるデータがない。仮に、全国の救急救命センターの設立時期等が明確になれば、設立前後の近隣住民の救急救命センターまでの距離の変化を利用し実証分析の精度を上げることもできる。さらに、個票データでは医療機関の夜間の救急医療の対応や、小児科が救急医療に対応しているかどうか等の救急医療体制の詳細が分かる。それらの情報を利用することにより、救急救命センターまでの距離だけではなく、救急医療体制の質が幼児死亡に影響を与えるかどうかも検討することができる。2年目以降では、申請する個票データも利用しながら、救急救命センターまでの距離に加え、医療体制の質についての考察も深める。さらに本研究の最終年には研究全体の総括を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由ですが、3月末に海外出張があり、その際の研究費の使用額の確定が遅れ、当該年度の所要額との差異が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額につきましては、それほど大きな残額とはなっていないため、今年度の研究費として利用する予定である。おもに資料収集費などに、その残額をあてる予定である。
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