研究課題/領域番号 |
16K03712
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
上田 貴子 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (00264581)
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研究分担者 |
名方 佳寿子 摂南大学, 経済学部, 准教授 (70611044)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 労働経済学 / 貧困 |
研究実績の概要 |
第一に、厚生労働省「国民生活基礎調査」によるデータ解析結果について、研究分担者の名方佳寿子が国内外での研究発表を行った。論文「児童手当の育児支出に与える影響」が専門書籍『少子高齢社会における世代間移転と家族』第6章に掲載、出版された。また、研究論文“Effects of Child Allowance on Family Expenditure”を、大阪大学でのシンポジウム、法政大学での研究会、さらに英国グラスゴー大学において開催された国際学会において報告した。本論文は、児童手当が育児支出額と家計支出に占める割合に及ぼす影響を分析、一部の家庭で児童手当の影響が確認された。具体的には、乳幼児のいる高所得家庭では児童手当が多いと育児支出額も多く家計支出に占める割合も高い一方、所得の低い家庭では児童手当が育児支出以外の家計支出に用いられ、児童手当が重要な収入源であることが示唆されている。 第二に、厚生労働省「国民生活基礎調査」、総務省「全国消費実態調査」及び「就業構造基本調査」個票データによる計量分析結果から、相対的貧困世帯では、持ち家率や床面積、貯蓄額、医療保険や公的年金への加入に負の影響があり、さらに片親世帯では追加的に負の影響が見られる。健康やストレス、健康診断の受診率へも負の影響が確認された。 第三に、法務省「矯正統計」「少年矯正統計」の個票使用申請が受理され、個票データの整理と予備的な分析を進めた。刑務所収容者データから、高校を卒業していない場合が6割以上、住居不定が2割弱、無職が約7割あり、再犯等との関連が確認された。また、少年鑑別所収容者データから、生活程度が貧困である場合や、虐待経験がある場合に少年院送致割合が高くなり、また貧困の場合に虐待経験割合が高くなっていることも確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
一昨年度に政府統計個票申請準備に時間がかかったことから、最終申請と個票の入手に若干の遅れが生じ、プロジェクトのスケジュールが全体に、若干後ろ倒しの状態で進められているため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度については、以下の計画で研究を進める予定である。 第一に、総務省統計局の「就業構造基本調査」の個票データにより、一人親家庭の就業行動を分析する。母子世帯の平均収入は全世帯の平均収入の半分ほどしかないことが知られており、母親の就業状況(正社員、非正社員、無職の別)が関連していると考えられる。そこで、本人の属性(年齢、学歴、職歴、子どもの人数、年齢、訓練・自己啓発の有無等)と、児童手当・児童扶養手当の制度変更の影響等を考慮した分析を行う。 第二に、厚生労働省「国民生活基礎調査」、総務省「全国消費実態調査」及び「就業構造基本調査」個票データによる分析結果の論文へのまとめを進める。具体的には、①貧困が住居や家計支出、子どもの教育、精神状況を含めた健康へ与える影響の分析、②世帯類型、特にひとり親世帯、非正規雇用者の世帯、無職者の世帯、介護離職者、高齢者世帯の貧困状況とその要因の分析を進める。 第三に、法務省「矯正統計調査」「少年矯正統計調査」個票データによる分析を進め、結果を論文にまとめる。前者は大人の刑務所収容者について、教育状況(高校を卒業しているかどうか)、住居不定者、無職者など犯罪時点での経済状況を制御し、貧困が犯罪の種類や再犯状況に影響を与えているのかどうか計量分析により検証を進める。また、「少年矯正統計調査」少年鑑別所収容者データからは、貧困や虐待と処分状況との関連や、貧困と虐待との関連を検証する。両分析から、特に教育や貧困と犯罪との関連の検証を行い、論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
一昨年度まで、国内・国際関連学会への出張経費について、他経費を充当したり、学会開催時期・内容等の都合により出張を延期したことにより未使用額が発生していた。当該年度は複数回の海外学会出張に経費を使用したが、なお若干の次年度使用額を繰り越すこととなった。今年度は引き続き国内外学会への出張に経費を使用する見込みであったが、新型コロナウィルス感染症の影響で国内外学会の開催中止やオンライン学会での開催が続く場合には、日本の経済状況の悪化による貧困への影響の調査経費とする可能性を模索する計画である。
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