第一に,親の所得が子どもの教育・学力へ与える影響を検証する目的で,子どものいる世帯を対象として独自のウェブ調査を実施した。質問項目には,子どもの全国学力テストの成績,通知表の結果,親の子どもとの時間,子供の勉強時間,所得,家庭環境を含めた。分析の結果,親の所得は、子どもの成績とプラスの相関があることが示された。ただし、子どもの成績が上がるにつれてその効果はなくなる。分析結果は論文としてまとめ,研究会等で報告を行っている。 第二に,新型コロナウィルス感染症拡大による低所得層への影響の分析結果を論文にまとめた。内閣府によるウェブ調査「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」個票データによる分析から,世帯年収階級の低い層ほど労働時間が減少,職場でのテレワーク実施率やビデオ通話経験率も相対的に低く,子どもの学校でのオンライン教育経験率も低い傾向が示された。また,非正規雇用は職場でのテレワーク等の対策の程度や情報通信技術の活用程度が相対的に低く,仕事・収入への不安も他の就業形態よりも強い傾向にある。 市民団体等による「コロナなんでも相談会」電話相談記録票の分析では,相談者の約4割が無職で,世帯収入の減少や滞納・借金がある相談者が4割前後に達し,相談者の4人にひとりはなんらかの支援制度を利用していた。自営業への影響は大きく,収入の減少や滞納・借金がある率が高く,制度の利用率も高い。分析結果は,貧困研究会の有志メンバーによる分析プロジェクトとして「貧困研究」26号に掲載された。 最後に,本研究課題で遂行してきた政府統計個票データ等による分析結果全般を学術研究書として執筆,早稲田大学学術叢書に応募・採択され「貧困と格差のミクロ・データ分析 - 貧困のリスク要因,犯罪,新型コロナの影響 -」として刊行準備中である。
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