研究課題/領域番号 |
16K03713
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小西 秀樹 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (50225471)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 純社会支出 |
研究実績の概要 |
純社会支出と所得分配の不平等を扱った先行研究の結果をサーベイし,予想通り研究がほとんどされていないこと,1期間のクロスセクションデータにもとづいた単純な回帰分析の結果しか報告されていないことを確認した.そのうえで,日本大学経済学部の宮里尚三教授にサポートしてもらいながらOECDの社会保障データベース(SOCX)のデータを加工し,1990年から2010年までの,純社会支出およびそれに関連するパネルデータを構築した.そのデータセットにもとづいて,2016年度は公的純社会支出,私的純社会支出が各国の所得分配(所得再分配後)とどのように相関しているか計測した.分配不平等の指数としては,OECDのデータベースで利用可能な上位と下位20%の所得水準の比,およびジニ係数を用いた.先行研究では1期間のクロスセクション・データにもとづいて,公的純社会支出と私的純社会支出を説明変数とした線形モデルを回帰して,公的純社会支出はいずれの分配不平等指数ともマイナス,私的純社会支出はプラスの相関を検出し,とくに後者が分配不平等を助長する可能性を指摘している.だが本研究が構築したパネル・データで同じ線形モデルを回帰しても同様な結果は得られなかった.ところが,公的純支出と私的純支出の交差項を追加して回帰してみると,不平等指数を上位下位20%の所得比で捉えたときにだけ有意な推計結果が検出されることがわかった.また出版については,井堀利宏氏との共著で政治経済学に関する著書を出版した.社会保障論については,3月末にアジア開発銀行で開催された国際カンファレンスに招待後援者として出席し,社会保障財源の調達に関する研究成果を報告し,多数の参加者との討論も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データベースの構築作業が完了し,先行研究と比較しながら実証分析のできる枠組みが整った.実際に作業をしてみると,先行研究の結果をそのままでは再現できないことがわかっただけでなく,新たな変数を追加すれば再現可能なことも明らかになった.この点を一層掘り下げていくことで,研究をさらに進展させられる展望が見えている.
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今後の研究の推進方策 |
先行研究に類似した結果をわれわれの構築したデータベースでは再現できない理由を追求するために,先行研究がもとづいているデータの期間だけでなく,それ以外の期間についても再現できるかどうか,実際に作業してみて確認する.また,期間だけでなくデータに含まれる国家群を変更した場合もチェックする.交差項を加えたときに有意な結果になる点については,さらなる経済学的な解釈を考える必要がある.私的純支出が相対的に大きい国とそうでない国の間で,不平等と純社会支出の間の関係が何らかの構造的な違いを持っている可能性を視野に入れて検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に帰国した際,他のカンファレンスへの出席も兼ねていたため,当該研究費から旅費を支出する必要がなくなり,その分だけ未使用額が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
カリフォルニア大学アーバイン校に滞在しながら研究をしており,この研究費から滞在費の一部を支出する.
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