研究課題/領域番号 |
16K03714
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
村上 由紀子 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (80222339)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 専門職 / 情報ネットワーク / 知識移転 / 労働移動 / キャリア形成 / 能力開発 |
研究実績の概要 |
本研究は専門職(日本の医師、研究者・技術者)を対象に、就職情報と専門知識の伝達・交換の範囲、そのインセンティブとコンテキスト、労働移動がその範囲に与える影響を見出し、専門職の間で情報・知識が普及するメカニズムを理論的・実証的に明らかにし、かつ、その普及を促進する方策を考察することを目的としている。 平成28年度は、第一に、専門職の職種間の違いも見出せるような共通の分析枠組みとアンケート調査を設計するために、研究者に関する既存のデータを再利用して予備的考察を行った。分析の結果、情報・知識の伝達・交換の範囲は、組織内異動、転職、海外赴任、海外留学などの過去の移動経験によって異なることが見出だされた。また、情報・知識の伝達・交換のインセンティブとコンテキストに関しては、仕事の特性、成果への期待、組織の情報・知識の伝達・交換を促進するマネジメント(評価、チーム編成など)、当事者の能力(専門性、理解力、説明力など)が重要なファクターであることが示唆された。第二に、医師の情報・知識の伝達・交換に関連する海外の先行研究をもとに、研究者とは異なる医師の特徴についても考察を深めた。 これらの研究を通して、①専門職の間で情報・知識が普及するメカニズムに関する仮説の方向を定め、②それを検証するために必要なデータの項目について目途をつけることができ、③平成29年度以降に実施する複数のアンケート調査の基本的な枠組みを定めたことが、平成28年度の成果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成28年度の始めに提出した交付申請書においては、平成28年度の計画として、①課題に関する文献研究を行うことと、②医師と研究者にインタビュー調査を実施し、アンケート調査に向けて必要な情報を収集することを挙げた。①については予定通りにかなり進展した。②については、研究者の場合は「研究実績の概要」に記したように、インタビュー調査に代えて既存のデータを分析することにより、今後のアンケート調査の設計に必要な知見を得ることができた。また、医師については、平成28年度は文献研究にとどまったが、平成29年度にまとまった数のインタビュー調査を実現する目途をつけることができた。したがって、現在までのところは、若干遅れながらも着実に進んでいるということができる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後三年間の間に、日本の研究者・技術者と医師を対象に就職情報と専門知識の収集、伝達、活用の行動をアンケート調査により把握する。このアンケート調査では、情報・知識の伝達・交換の行動とその行動への労働移動の影響を一般化できるように、また、研究者・技術者と医師を比較できるように、枠組みと質問項目を設定し、得られたデータを計量的手法で解析する。これらの実証研究と同時に、ネットワーク理論、インセンティブ理論、ゲームの理論などの理論的研究も進め、最終的に、専門職の情報・知識の交換・普及に関する理論的・実証的研究をまとめる。成果のすべてをまとめて学会発表、論文発表等を行うにはさらに年月を要すると思われるが、期間内にまとまったものから順次発表していく計画である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
「現在までの進捗状況」に記したように、平成28年度に研究者と医師にインタビュー調査を行う予定であったが、研究者の場合は既存のデータ解析により予備的考察を行うことができ、コストを低く抑えることができた。また、医師のインタビュー調査については平成29年度に持ち越すことになり、そのために前年度未使用の予算も29年度に使用する計画である。
|
次年度使用額の使用計画 |
持ち越された予算については、医師のインタビュー調査に加えて、研究者・技術者のインタビュー調査に利用する予定である。民間企業の研究者については、既存データの分析によりかなりのことがわかったが、研究者でも大学や公的研究機関に勤務する人や技術者については、アンケート調査を実施する以前にインタビュー調査が必要と思われ、その実施費用に充当する計画である。
|