研究課題
少子高齢化による労働力人口の減少が今後一層加速するわが国では、多くの人が健康で生き生きと働ける社会の実現が望まれている。本研究はそうした社会の実現のために不可欠な、労働と健康との関係についてのエビデンスを定量的かつ経済学的に提示することを目的として、主に以下の検証を行った。第一は、職場における人間関係が労働者のメンタルヘルスに与える影響について検証した。同一個人を複数年にわたり追跡調査したデータを分析した結果、性格特性や元々のメンタルのタフさといった個々人に固有の要因や、労働時間・仕事の負荷といった業務に関連する情報を統計的にコントロールしたとしても、管理能力やコミュニケーション能力が劣る上司の下で働いている部下のメンタルヘルスは、それらが優れた上司の下で働いている部下に比べて、統計的に見て有意に悪い傾向にあることが明らかとなった。第二は、なぜ人々はメンタルヘルスを毀損するほど長時間労働をしてしまうのかについて、行動経済学の視点を取り込み、同一個人を追跡調査したパネルデータを用いて解析した。分析の結果、人間には職場での自己効力感等の非金銭的欲求を満たすために、仕事満足度を高めようしてメンタルヘルスの不調に気が付かずに長時間労働をしてしまう傾向にあることなどを定量的に明らかにした。第一および第二の研究は査読を経て、英文学術雑誌に掲載された。第三に、健康と生産性との関係について、労働経済学や関連分野の先行研究を広くサーベイする展望論文を執筆した。これらの一連の研究は全て、労働と健康、そして健康を通じた生産性への影響を経済学の観点から厳密に分析することに焦点を充てたものである。
すべて 2018 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
Japan and the World Economy
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