本研究課題の「研究の目的」は、家計の労働供給の中でも特に既婚女性の労働供給に影響を及ぼす配偶者控除制度に焦点を当て、税制設計の違いが労働供給行動に及ぼす効果をマイクロ・データを用いて検証することにあった。上記の研究目的を達成するための「研究実施計画」は、まず分析に必要なマイクロ・データを入手し、シミュレーションを行うためのプログラムを作成した上で、異なる税制設計が家計の労働供給に及ぼす効果のシミュレーション分析を行うという作業に集約される。 上述の「研究の目的」および「研究実施計画」の下、作業を進めてきたが、近年の周辺領域の研究動向に照らして分析を以下のように拡張した。まず(1)当該所得だけでなく生涯所得が労働供給に影響を及ぼすという経済理論を踏まえて、若年層を対象とした配偶者控除制度だけでなく、高齢者の所得保障も明示的に考慮した分析、さらに(2)所得税の在り方として所得控除ではなく、税額控除で考えた場合の最適税制設計についてシミュレーションするという分析である。 研究の成果をまとめると、まず配偶者控除制度が既婚女性の労働供給に及ぼす効果については、マイクロデータを用いたデータセットを作成し、推定プログラムを作成するところまでは達成できたものの、異なる税制設計の比較に向けたシミュレーションには至らなかった。その一方で、拡張された分析(1)については、個人の生涯を通じた労働供給機会が退職給付制度といった所得保障の程度に依存していることがマイクロデータで明らかにされ、また拡張された分析(2)については、所得控除に基づいた現行の所得税制度の下では、所得税の財源調達機能・所得再分配機能が弱いのに対し、税額控除に基づく所得税制度のシミュレーションを行ったところ、財源調達機能・所得再分配機能に改善の余地があることが示された。
|