研究課題/領域番号 |
16K03730
|
研究機関 | 国立社会保障・人口問題研究所 |
研究代表者 |
暮石 渉 国立社会保障・人口問題研究所, 社会保障応用分析研究部, 第4室長 (00509341)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 未納・未加入 / 国民年金 / 社会的つながり |
研究実績の概要 |
日本では,単身世帯,特に高齢者の単身世帯,生涯未婚者(あるいは中高年単身者)の増加や三世代同居の減少が予測されている.本研究はこのように小規模化する世帯構造に対して個人がどのように対処しようとしているのかを貯蓄の観点から,分析することが目的である. 具体的な研究項目は次の2つである. A.予備的貯蓄:従来から分析されてきた高齢・退職・失業に加えて,離別や死別,親の要介護,所得稼得能力の低下,生活の困窮等のその他のリスクにそなえて,個人や世帯がどの程度の予備的貯蓄を保有しているのかを明らかにする. B.単身世帯や小規模世帯と世代間移転:戦略的遺産動機を考え,小規模化した世帯においてどのようなインプリケーションを持つのかを分析する. 本年度は,A.予備的貯蓄に関連し,国民年金の未納・未加入を金融選択の一種であると捉え,社会とのつながりが国民年金の未納・未加入に影響を与えるかどうかに焦点を当てて分析を行った.社会とのつながりが強いほど,国民年金への加入や納付が促されるかどうかを,国立社会保障・人口問題研究所が2012年7月に実施した『生活と支え合いに関する調査』からのマイクロデータを用い検証した.得られた結果は,「看病や介護,子どもの世話」や「家具の移動,庭の手入れ,雪かきなどの手伝い」,「災害時の手助け」に関して,頼れる人がおり,かつ助けを必要としている時に助けと答えた人は,国民年金に加入している確率が高いということであり,社会とのつながりが強いほど,国民年金への加入や納付が促されるということが示された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
A.予備的貯蓄においては,離別や死別,親の要介護,所得稼得能力の低下,生活の困窮等のその他のリスクへの備えやB.戦略的遺産動機における,介護サービスをもらう側の競争といった,まだ解明されていないリスクに関する分析を完成させ,ここ四半世紀の経済・社会の変化が所得保障制度に与えた影響・事実を整理し,あわせて予想される制度の変化の方向性へと展開するため,研究期間中に以下のことを明らかにすることを目指している. 特に,預金や金融資産などの貯蓄に関して,さまざまな目的のどれが予備的貯蓄を測る指標として望ましいか文献を調べ,上記の様々な貯蓄目的について,金額,貯蓄を持っているか,貯蓄を過去1年間で積み増したかどうかを各種サーベイで比較を行うことと,予備的貯蓄と公的年金の所得代替率との関係を明らかにすることについては,論文暮石(2016)によって達成されている.
|
今後の研究の推進方策 |
小規模化する世帯構造において,勤労世代の単身で暮らす女性3人に1が相対的貧困となっていることは,広く知られているが,今後は,相対的貧困から抜け出すために再婚したり,親元に帰ったりなど世帯規模を拡大させることがどの程度行われているかを検討することが必要である. そこで,日本の子どもに関するパネルデータである「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」を用い,子どもがいる世帯の貧困の持続性を分析する.この縦断調査は,厚生労働省によって実施されており,2001年1月10日から17日と同年7月10日から17日に生まれたすべての新生児を追跡している.この縦断調査はこれら新生児の子ども期のライフコースを継続的に記録しているので,子どもがいる世帯の貧困を動態的に把握することが可能である.つまり,ある時期において貧困状態にある子どもがいる世帯がその後の時期においても貧困であるのか,それとも,ある時期において貧困にある子どもがいる世帯とそうでない世帯のどちらにおいても,同じ程度にその後の時期において貧困であるのかを見ることができる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては,初年度ということがあり,研究成果を国内や海外での学会等で発表を行わなかったことがある.また,ノートPCの購入を計画していたが,以前から使用しているものでも分析に耐えることが分かったため,購入を見送ったこともある.
|
次年度使用額の使用計画 |
分析結果が出そろう今年度後半には,国内外の学会等で報告を行うので,旅費の支払いを計画している.
|