研究実績の概要 |
日本では,単身世帯,特に高齢者の単身世帯,生涯未婚者(あるいは中高年単身者)の増加や三世代同居の減少が予測されている.本研究はこのように小規模化する世帯構造に対して個人がどのように対処しようとしているのかを貯蓄の観点から,分析することが目的である. 具体的には,親の要介護に関連し,本研究では,介護保険が導入されて15年が経過した今でも家族介護の果たす役割が大きいことに着目し,家族介護の負担が介護者に身体的・精神的に悪影響を与えているのではないかという仮説を検証した.本研究の結果から,家族介護の負担が,主要な家族介護の担い手である妻の健康に悪影響を与えていることがわかった.妻が配偶者の親へ介護をおこなうと,妻の主観的健康感が悪くなり,抑うつ度が限界的ではあるものの高くなるからである.一方,夫の場合だと,配偶者の親に介護を行なったとしても,主観的健康感や抑うつ度に影響を及ぼさないということが,Wakabayashi and Kureishi (2018, Review of Development Economics)によって達成されている. 使用したデータは,独立行政法人経済産業研究所と国立大学法人一橋大学が協力して実施する「くらしと健康の調査(JSTAR:Japanese Study of Aging and Retirement)」からの50歳代から70歳代の結婚している中高齢者で自分の親もしくは配偶者の親が存命の個人である.本研究は,配偶者の親への介護が,介護者の健康状態に与える影響を検証するものであり,分析手法は,Do, et al.(2015)を参考に,配偶者の親の要介護度を操作変数に用いた操作変数法である.配偶者の親の要介護度は,その親に対して介護を行うかどうかに影響するが,介護者の健康には直接には影響を与えないという事実を利用した.
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