研究課題/領域番号 |
16K03731
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
室井 芳史 東北大学, 経済学研究科, 准教授 (90448051)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 数理ファイナンス |
研究実績の概要 |
漸近理論に基づいた金融派生商品の価格付け問題についていくつかの進展があった。一つは、一時、日本において注目を集めた変額保険商品に関するものであり、もう一つは近年学術会で注目を集める高速平均回帰型確率ボラティリティ・モデルに関する研究である。前者については、かつて英国の大手保険会社の経営に甚大な影響を与えた最低年金額保証オプションに関するものである。この商品は販売を行ったときの予想と異なり、結果的に、かなりリスクの大きな金融商品であったことが知られている。この20年ほど最低年金額保証オプションの価格評価問題の研究が多く出たが、近年は確率ボラティリティの効果を計算するという研究が見られるようになってきた。そこで、今回は小分散漸近展開法を用いて確率ボラティリティ・モデルにおける同商品の価格計算を行った。また、後者については、やはりこの20年ほどの間に特異摂動展開法と呼ばれる手法を用いて、確率ボラティリティ・モデルにおいてさまざまな金融派生商品の価格を導出する研究が盛んに行われてきた。ところが、この手法は派生商品の支払い価格関数が有界かつ滑らかな場合の手法の正当化は余り難しくはないが、通常のオプションのように滑らかさが失われた場合の手法の正当化は数理的に難しい問題であった。そこで、フーリエ解析と組み合わせることで、数理的な正当化が簡便になることを示した。また、ジャンプ拡散モデルへの拡張やバミューダ型オプションのように早期行使権のある金融商品への適用が可能であることを示すことに成功した。 また、派生商品評価の問題一般において、ジャンプ拡散モデルにおいて離散マリアバン解析と2項木モデルを用いてオプション・グリークスが計算できることを示すこともできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、2項分岐木モデルに漸近理論を用いてオプション価格計算をする方法について研究をすることをメインの課題の一つとしてきた。しかし、この問題を真剣に取り組むと、高次の漸近論まで用いなければ近似精度が悪く良い結果とならないのではないかという疑念が生まれてきた。高次まで計算するとなると最終結果が余りきれいな形では書くことができない恐れがあった。そこで現在は、2項分岐木モデルではなく連続モデル(CEVモデル)におけるオプション価格において価格計算をする方向に研究の軸足を移し始めている。「研究実績の概要」における高速平均回帰型確率ボラティリティ・モデルにおけるオプション価格付けと同様の方法を用いることにより、ヨーロピアン・オプションのみならずバミューダ型オプションやアメリカ型オプションのような早期行使権のある金融商品をも簡便に計算する方法を模索している。現在のところ、方針や基本的なアイデアなどは定まったものの予想通りに研究が進展するを判断するにはもう少し時間が必要そうである。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」にある通り、漸近論と2項分岐木を組み合わせる手法については良い方向になるという自信は余りない。そこで漸近論とフーリエ解析との組み合わせにより連続モデルでオプション評価を行う方向に方針を切り替えている。この方法が上手くいくかどうかを判断するのにはもう少し時間が必要そうである。数理的な問題点が上手クリアできた場合には、最終的に数値計算をすることとなるが、そちらは過去の研究で近いものを行った経験を持ち合わせていることにより一定の自信をもっている。また、今年度は、信用格付けモデルを用いた信用派生商品評価関する研究も完成させるつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外での研究発表などに補助金を使用したが、端数が残ったため次年度に繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越は端数部分であり大きな値ではないので、ほぼ事前の計画通り支出を行っても特に問題は生じないと考える。
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