研究実績の概要 |
2008年の金融危機の原因として、その前の世界的な資金余剰、特に東アジア諸国の欧米の債務への巨額投資が、挙げられることがある。最近でもトランプ米国大統領など外国の政治家や一部の経済学者から、大幅な貿易黒字などの国際収支(グローバル・インバランス)が非難されている。 本研究ではこれまで、歴史的なデータを集め、19世紀以来、工業化が急速に進んでいる国が同時に多くの対外資産を貯めてきたことを示した。それらは順に、イギリス、フランス、ドイツ、そして1900年から1980年ごろまではアメリカだった。本研究はこのような長期的な対外資産のパタンを初めて示した。またそれを示す理論を完成させた。 理論は、各国が順に産業革命を経験する経済成長モデル(Lucas, 2004)をもとにするが、その閉鎖経済の仮定は取らず 開放経済で考察した。その上で、二つの市場の不完全性を仮定する。一つは産業革命が起きること自体を賭けの対象とするような証券市場はないとの仮定で、もう一つは、各国の消費は国際通貨が必要との仮定である。これらの仮定のもとで、産業革命を経験した国が、その成長が早い時に対外資産を貯めていき、その状況が順番に起きることを、理論的に示した。これはRIETI Discussion Paperとして2017年5月に発表した。 2018-19年度には、理論を掘り下げたが、多くの国が工業化という移行過程にあり、複雑でさらなる解析はほぼ不可能なこと、また数量的シミュレーション分析もかなり難易度が高いことが判明した。 なお、グローバル・インバランスに関し、既存の文献や国際通貨基金の調査などをまとめ、その現状の把握にも努めた。この結果は2018年度に一般読者向けのものとして雑誌「ファイナンス」に発表し、2019年度には研究者向けに内容を深めたものをPRI Discussion Paperとして発表した。
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