研究課題/領域番号 |
16K03738
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
三隅 隆司 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (00229684)
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研究分担者 |
白須 洋子 青山学院大学, 経済学部, 教授 (80508218)
近藤 隆則 京都橘大学, 現代ビジネス学部, 教授 (60756203)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 金融リテラシー / 個人の金融投資行動 / アンケート調査 / 心理特性 / 人口統計学的属性 |
研究実績の概要 |
平成28年度は,日本人の金融資産選択行動に影響を与える要因を特定するための基礎作業として,家計の金融資産行動に関する既存研究の整理および具体的な実証研究に向けたデータ収集活動としてのアンケート調査を行った. まず,家計の金融行動に関する既存の理論的・実証的研究を幅広く検討することを通じて,経済的変数のみならず,個人の金融リテラシーの程度,心理・行動特性,人口統計学的属性が,家計の金融資産選択行動に有意な影響を与えることがより強く理解された. そこで,家計の金融リテラシーの程度,心理・行動特性,人口統計学的属性および金融投資行動に関する大規模なアンケートを行った.金融リテラシーの程度については,複数の既存研究にもとづき,金融に関連する基礎的学力を問う基本的なリテラシー(質問数6問)および金融に関する専門的知識を問うより進んだリテラシー(質問数9問)について質問を行った.心理特性については自信過剰および危険回避の程度を数量化できるよう質問を構成した.特に,自己評価と客観評価の比較を可能とする質問攻勢をとり,主観的な自信過剰と客観的な自信過剰を数値化できるようにした.金融投資行動としては,投資経験,保有資産の種類と金額,取引頻度,投資に関するアドバイスおよび投資リターンに関して質問を行った.さらに,人口統計学的属性については,性別,年齢,居住地域,所得や資産額,学歴,職業および家族構成等に関する質問を行い,金融リテラシー,心理特性および金融投資行動に影響を与える説明変数を構成した. 平成28年度の研究では,インターネット調査会社を通じて,25歳以上80歳未満の男女を対象としたアンケート調査で収集した5500を越える回答結果に基づいて,日本人の様々な特性と投資行動の関係について,記述統計学的な観点から,おおまかな傾向を読み取った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,日本人の金融リテラシ-,心理・行動特性,人口統計学的属性および金融投資行動に関するアンケート調査の集計結果の基本統計量から,いくつかの傾向を読み取ることができた. 第1に,金融に関する専門的知識を問う質問の正答率は低く,知識があまりない状態で投資を行っている個人が少なくない可能性が示された.第2に,日本人の過半数は株式や投資信託といった危険資産を保有した経験がまったくなく,さらに資産取引をまったく行っていない個人が大多数であることが明らかとなった.このことは,「貯蓄から投資へ」という日本の政策課題への取り組みがなお必要であることを意味している.第3に,金融リテラシーに関する質問への正答率が高い人ほど,保有金融資産の投資利回り(過去2年間における自己評価)が高い傾向がある.このことは,金融リテラシーが高い個人は合理的な投資行動を行っている可能性を示唆している.第4に,リスク回避度が低い人ほど危険資産を保有する傾向が強い可能性が示された. 本研究課題では,アンケート調査やインタビュー調査を通じて,日本人の金融行動を「貯蓄から投資へ」変換させるための政策的課題・金融教育のあり方について考察することを目的としている.平成28年度は,日本人の金融投資行動と様々な個人特性との関係を数量的に分析するために必要な様々なデータ(変数)を作成するためにアンケート調査を実施し,記述統計学的な観点から,いくつかの傾向を読み取ることができた.記述統計的考察から得られた結果は,本研究が設定した研究課題がより精緻な分析を行うに値するものであることを示していると考えられる.したがって,平成28年度の研究の進捗は,当初の予定通り,順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度における分析は,あくまでも記述統計学的なものにとどまっており,日本人の金融資産選択行動に影響を与える様々な要因を総合的に考察したものとはなっていない.そこで平成29年度以降は,アンケート調査を通じて構成された多様な変数を用いて,日本人の金融投資行動について,以下のような課題を設定して,より精緻な分析を行っていく予定である. 第1に,日本人の金融リテラシーの決定要因を考察する.既存研究によれば,個人の金融行動を決定する重要な要因の1つが金融リテラシーの程度であることが明らかにされている.したがって,日本人の金融資産選択行動を考察する本研究課題においても,リテラシーの分析は重要課題の1つである. 第2に,危険資産投資行動(保有の有無および危険資産保有の投資利回り)と金融リテラシーの関係を分析する.「貯蓄から投資へ」の変換をもたらすためには,個人による危険資産保有を推進することが必要である.本分析は,金融リテラシーの向上がその要因になるかどうかについての示唆を与えることが期待される. 第3に,個人の心理・行動特性(自信過剰や信頼の程度)の程度によって,投資行動に与える金融リテラシーの効果がどのような影響を受けるかを分析する.標準的なファイナンス理論では捉えられない要因を明らかにすることが本分析の目的である. 以上の課題を,計量経済学の手法を用いて分析することが今後の研究課題である.平成29年度は,上記3課題のうち少なくとも2つについては,ワーキングペーパーとしてまとめ,できるだけ早期(予定としては平成30年度.可能であれば29年度)に学会で発表し,査読付き雑誌へ投稿する.残りの課題についても平成30年度末までには,ワーキングペーパーとしてまとめ,学会での報告および投稿を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は,既存研究のレビューおよびアンケート調査に向けた質問項目の作成を重点的に行ってきた.個人の金融投資行動に関する既存研究が膨大であり,既存研究のレビューに約4ヶ月を要した.さらに,アンケート調査についても,限られた予算の範囲で,できる限り多くの変数の作成を可能とするとともにサンプルの確保と回答の信頼性を担保するために望ましい質問項目の設定に約6ヶ月の議論が必要であった.そのため,当初予定していたヒアリング等は断念し,アンケート調査の実施に専念した.
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は,平成28年度に行ったアンケート調査結果にもとづいてワーキングペーパーを作成し,セミナーでの報告や学会報告を複数回にわたって行う予定である.平成28年度の残額については,29年度の助成金と合わせ,セミナーおよび学会参加のための旅費として使用することを計画している.
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