2017年度の研究報告「銀行による第三者割当増資の問題について:1990年代後半の金融危機時の事例に関する実証研究」について,「増資を行った金融機関の融資先企業が引き受け手となってリスク負担を強いられた」という本研究の仮説検証の頑健性を確認するための,追加分析を進めた. 増資実施の判断を考慮したヘックマン2段階推定を用いて分析を進めた結果,地方銀行のみのサンプルでは,第三者割当増資実施決議時の超過収益率に対して,割当先数の係数は,正で有意になった.同一サンプル期間での一般事業会社を含めた全サンプルでは,負で有意であったこととは反対の傾向を示している.つまり,第三者割当増資によるシグナリング機能やモニタリング機能を期待できないケースの方が,株価には正の影響を及ぼしているという特異な傾向を示しており,地方銀行に関しては,割当先数が多いケースほど,増資の引受先から既存株主への所得移転という色彩が濃いと解釈できる.しかも,割当先数への影響要因について検証を行った結果,ディスカウント率低く,割高な募集価格の場合ほど,割当先数が多くなる傾向を示している. その上で,Barber and Lyon(1997)による月次株価データを用いたFama・Frenchの3ファクターモデルで,第三者割当増資実施決議前後の19か月および24か月の株価変化について検証を行った.割当先数が100件を超えるケースでは,市場の変動による影響を取り除いた上で,有意な株価低下を確認できる.一方,割当先数が100件未満の場合,有意な株価変化を確認することはできなかった. 以上をまとめれば,金融機関による融資先を巻き込んだ増資は,貸出先企業が,借入先を変更するスウィッチング・コストの存在を利用して,増資の引き受けを促した可能性が高く,本質的な企業価値の改善にはつながらず,経営陣のための延命策である可能性が高いと考えられる.
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