研究課題/領域番号 |
16K03742
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
岩壷 健太郎 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (90372466)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 国債 / マイクロストラクチャー / 金融政策 / オプション市場 / 社債 |
研究実績の概要 |
Iwatsubo and Taishi(2016)は黒田総裁就任直後の国債市場の流動性悪化を受けて、日本銀行が行った国債買入れ方針の変更が流動性を大きく改善していることを示した。日本銀行は1日の買入れ回数を増やす一方で1回当たりの買入れ額を減らし、1日の買入れ額の平準化を行った。また、月次の買入れスケジュールをこまめに公表するようになった。このような変更がタイミングや額に関する投資家の買入れ予想を容易にし、買入れ時の不確実性を減少させ、流動性を改善したことを明らかにしている。 本研究では、量的質的金融緩和を開始した当初の国債市場の流動性に着目したIwatsubo and Taishi(2016)とは異なり、それ以前の白川前日銀総裁時代から遡って、マイナス金利導入までの時期を対象に、日本銀行の国債買入れが市場流動性や価格の情報効率性にどのような影響を与えるのか、それが金融政策の移り変わりによってどのような影響を受けるのかを実証的に分析する。 日本銀行の量的緩和政策の手段として行われている国債買入れが国債現物市場および国債先物市場の流動性と効率性にどのような影響を与えているのか、政策の移り変わりに配慮しながら、推計を行った。分析の結果、量的質的金融緩和を開始した2期に流動性の悪化が見られた。また、価格の情報効率性については、2期および、買入れ額の増額を行った3期において効率性の悪化が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画書に書いた「量的質的金融緩和が債券価格の情報効率性に与える影響」に関しては、分析手法を変更し、順調に研究を終えることができた。研究結果は東京証券取引所の先物オプションレポートで発表した。
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今後の研究の推進方策 |
2つのテーマで研究を行う予定である。 一つ目は、国債価格について、現物市場、先物市場、先物オプション市場のどの市場において価格発見が行われているかという問題意識に基づいた分析である。最近の研究ではオプション市場には機関投資家など情報投資家が多く取引を行っており、価格発見において大きな役割を果たしているといわれる。ところが、量的質的金融緩和に伴う日銀による国債買入れは、現物市場での価格の効率性や価格発見に影響を与えており、必ずしもプロ投資家が多い先物市場や先物オプション市場での価格発見に優位性があるとはいいきれない。そこで、3つの市場を比較する形で、国債価格の価格発見を分析している。現在、膨大なデータの整理に取り組んでいる。 二つ目は、日本銀行による国債・社債の買入れが社債スプレッド(社債と国債の利回り格差)に与える影響の分析を行っている。通常、社債スプレッドは、財務内容が良好で信用力の高い企業ほど小さくなる。ところが、2016年1月のマイナス金利政策導入以降、社債市場では社債金利をプラスに保つことを優先した結果、国債を基準金利とした「スプレッド・プライシング」の評価軸が機能不全に陥り、利回りの絶対値で条件決定する「絶対値プライシング」が一般化するようになった。こうした環境下では、そもそも低位になった高格付け社債の利回りがプラスを保つためには、上乗せ金利が大幅に拡大しないと帳尻が合わないため、基準金利がマイナス圏で推移する短期ゾーンを中心に、高格付けほど社債スプレッドが拡大するという価格形成の歪みが生じている。そこで、量的・質的金融緩和政策が社債価格形成に与えた影響を定量的に明らかにしている。2018年度の日本ファイナンス学会で発表予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年4月にカナダのオタワ行われたSovereign Bond Conferenceに参加するための旅費として2017年度に確保しておいたため。
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