日本銀行による国債・社債の買入れが社債スプレッド(社債と国債の利回り格差)に与える影響の分析を行った。通常、社債スプレッドは、財務内容が良好で信用力の高い企業ほど小さくなる。ところが、2016年1月のマイナス金利政策導入以降、国債の利回りがマイナスになる中で、社債市場では社債金利をプラスに保つことを優先した結果、国債を基準金利とした「スプレッド・プライシング」の評価軸が機能不全に陥り、利回りの絶対値で条件決定する「絶対値プライシング」が一般化するようになった。そのため基準金利がマイナス圏で推移する短期ゾーンを中心に、高格付けほど社債スプレッドが拡大するという価格形成の歪みが生じている。
本研究では社債スプレッドの「水準」、「傾き」、「曲率」から説明される期間構造を分析対象とし、日本銀行による国債および社債の買い入れがそれらのファクターに与える影響、および格付けの異なる社債ポートフォリオのレベルファクターの違いに与える影響を異なる金融政策の時期に分割して分析した。その結果、(1)JGB買入れはJGBイールドの水準ファクターや傾きプファクターに対して有意な押し下げ効果が見られる一方で、社債スプレッドに対して押し上げ効果が見られる。(2)社債買入れについては、最も効果があった包括緩和期から徐々に効果が低下し、マイナス金利期やYCC期では有意な効果が見られなくなっている。(3)国債・社債買入れは、おおむね国債と社債のイールドカーブのフラット化に寄与しているが、社債のタームプレミアムに与える効果は国債買入れに比べて、社債買入れの効果は小さい。(4)国債・社債の買入れはともに、信用リスク・プレミアムを軽減するのに寄与しているが、信用リスク・プレミアムの低下は主に、国債買入れによって生じている。
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