1.本研究の基礎は、経済3変数(物価・賃金上昇率、運用資産の収益率)を確率的に変動させ、マクロ経済スライドを終了年や給付水準の予測が可能な財政モデル(国民年金・厚生年金)である。 2.まず、このモデルを利用てマクロ経済スライド下で、確定拠出型に近い性質を持つ公的年金(厚生年金)受給権の金融的性質(リターン、リスク、相関)を検証した。 3.その結果,厚生年金の受給権には,・賃金上昇率かそれより低い収益率と低いリスク,・物価・賃金上昇率との高い相関、という特徴があった。この特徴から公的年金に上乗せされる、老後の私的準備(確定拠出年金)の資産配分に以下の示唆が得られた。第1に老後準備全体での実質収益率を確保するためには、マクロ経済スライドのない場合や公的年金を考慮しない場合よりも内外株式への配分割合を高める必要がある。第2に国内債券のリターンが低い時期には、公的年金の受給権の存在が、老後準備全体の効率性(リターン・リスク比)を改善する効果を持つ。第3に経済が順調ならば老後準備全体としての効率性が改善される一方、マクロ経済スライドの終了が遅れると、後年代の加入者が平均的な給付水準を確保するには高リスクポートフォリオを選択せざるを得ないというトレードオフに直面することがわかった(2020年度)。 4.さらにこの年金財政モデルを利用し、マクロ経済スライド(給付水準の調整の仕組み)発動の条件を検証した。2004年度の制度改正以降、ほとんど発動されていないこの仕組みの発動を促すため、2016年改正により導入された繰越ルール(キャリーオーバー)の有効性を検証した。その結果、繰越ルールの効果は名目の賃金・物価上昇率の水準(期待値)に依存し、賃金・物価上昇率に過去の標準的な変動があっても、2004年から最近まで続いたゼロ近傍が平均値であれば、繰越ルールの効果がないことが確認できた(2021年度)。
|