研究課題/領域番号 |
16K03745
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
岡野 衛士 名古屋市立大学, 大学院経済学研究科, 教授 (20406713)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 量的緩和政策 |
研究実績の概要 |
本年度はGertler and Karadi (2011, GK)を拡張し、狭義の量的緩和政策について理論分析を行った。まずGK (2011)のモデルに中央銀行の政策変数として民間向け貸出に加え準備預金が有効になるようCurdia and Woodford (CW, 2010)に従い中央銀行の詳細なバランスシートを導入したモデルを導出した。さらにモデルを定常状態周りで対数線形近似し、GK (2011)と異なりGali (2008)およびBenigno and Woodford (2005)に従い効用関数の2次近似から得られる厚生費用関数を導出した。政策として質的緩和政策と狭義の量的緩和政策を考えた。ここで、質的緩和政策とはGK (2011)と同じく民間向け貸出を政策変数とする政策、狭義の量的緩和政策とは準備預金を政策変数とする政策である。そして2つの政策の下でモデルを解き、2つの政策の下でのマクロ経済変数のボラティリティと厚生費用を比較した。モデルの陽表的な解析解を得ることはきわめて困難なため高性能PCおよび行列演算ソフトを用いた数値解析を行った。次に (近似的な)最適量的緩和政策ルール(準備預金残高が預貸スプレッドに反応する金融政策ルール)とGK (2011)に基づく最適質的緩和政策ルール(中央銀行の企業向け貸付残高が預貸スプレッドに反応する金融政策ルール)をFerrero (2009)に従い合理的期待均衡を満たす範囲内で高性能PCおよび行列演算ソフトを用いてグリッドサーチで求めた。最後にグリッドサーチで得られた最適質的緩和政策、最適量的緩和政策それぞれのルールについてモデルを数値解析し、それぞれの政策がもたらすマクロ経済変数の動学の特徴を確認した上で厚生費用を効用関数の2次近似から得られた厚生費用関数に従い計算した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画には、平成28年度はGertler and Karadi (2011, GK)を拡張し、狭義の量的緩和政策について理論分析を行うと記されている。具体的にはGK (2011)のモデルに中央銀行の政策変数として民間向け貸出に加え準備預金が有効になるようCurdia and Woodford (CW, 2010)に従い中央銀行の詳細なバランスシートを導入したモデルを導出し、ついで質的緩和政策と狭義の量的緩和政策についてモデルを解き、2つの政策の下での厚生費用が似通っていることを確認することが平成28年度には計画されている。研究実績の概要において示したように平成28年度はGK (2011)のモデルに中央銀行の政策変数として民間向け貸出に加え準備預金が有効になるようCurdia and Woodford (CW, 2010)に従い中央銀行の詳細なバランスシートを導入したモデルを導出し、2つの政策の下での厚生費用を計算しそれぞれの政策の下での厚生費用を求めたので平成28年度の計画を概ね達成したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度には平成28年度の理論分析を実証する。まず、平成28年度の理論分析で導入した準備預金が預貸スプレッドに反応する金融政策ルール、つまり量的緩和政策ルールを平成28年度に導出したモデルに導入した上で狭義の量的緩和政策が導入されていた2001年~2006年の日本のデータをデータベースより得て量的緩和政策ルールの反応係数を含む構造パラメータを高性能PCおよび行列演算ソフトを用いベイズの手法により推定する。次いで得られた構造パラメータを所与に平成28年度の理論分析で得られた最適量的緩和政策ルールの下でのマクロ経済変数のパスをシミュレーションで求めボラティリティを計算し、実績値のボラティリティと比較し最適量的緩和政策ルールの下でのボラティリティが有意に小さいことを示す。さらに厚生費用を実績値から推計される厚生費用と比較し、最適量的緩和政策ルールがより低い厚生コストをもたらすことを確認する。これらから2001年~2006年の量的緩和政策 (QE0)が規模において不十分であり、QE0そのものはマクロ経済の安定化や厚生費用の最小化に十分寄与することを示す。推定とシミュレーションはDSGEモデルへのベイズ推定の応用を提案しているSmets and Wouters(2003)等に従う。
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