研究課題
本年度は株価と国債価格の動学的依存関係をコピュラを用いて検証する研究を実施した。とりわけ国債は、リスクが高まった際に避難資産として価格が上がる傾向がある。本研究ではどの国の国債が避難資産としての性質を有しているかをコピュラならびに統計的検定を用いて特定する試みを行った。分析対象は先進8か国(オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、日本、スイス、イギリス、アメリカ)の国債とした。また、株式データはこれら8か国の株価指数に加え、世界全体の株価指数も採用した。すなわち本研究では、国内の株式投資に対する避難国債と、国際的な分散投資に対する避難国債を分けて考え、それぞれの投資戦略に応じて8か国のうちどの国の国債が避難国債に該当するかを検出している。対象期間は1999年から2018年までとした。また、手法としてはレジーム・スイッチング・コピュラを採用した。株価と国債価格は正の関係だけでなく負の関係があるとも予想される。特に本研究の焦点である避難国債の性質は、リスクが高まった際に株価と国債価格の関係が負になることを前提としている。レジーム・スイッチング・コピュラは複数のコピュラ関数を組み合わせることで、正と負の関係をともにモデル化できる。分析の結果、以下の点が明らかになった。まず、国内株式投資に対してはカナダ以外のすべての国の国債が避難国債としての性質を有していることが分かった。次に、国際分散投資に対しては、アメリカの国債のみが避難国債としての役割を全標本期間で有していることが分かった。また、ドイツ、日本、イギリスの国債は一部の期間のみ国際分散投資に対して避難国債としての役割を果たしていた。以上の分析結果は、国内向けの株式投資のケースと国際分散投資のケースとでは避難国債が異なることを示唆しており、投資家のリスク・マネジメントにとって貴重な情報となるであろう。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度の研究計画は、株価と金利の動学的依存関係をコピュラを用いて明らかにすることだった。実際の研究では金利を国債価格の変化率に置き換えた上で、「研究実績の概要」に記した通り、株価と国債価格の関係をコピュラを用いて分析し避難国債を特定できた。よって、研究計画通りに順調に進展しているといえる。
これまでの自身の研究では2変数間または3変数間の関係をコピュラを用いて分析してきた。しかし現実には金融資産の種類は非常に多く存在し、同種類の金融市場内(例えば株式市場内)あるいは異種類の金融市場間(例えば株式市場と国債市場)の分析を行う際には、高次元にも適用できるコピュラモデルが必要となる。今後の研究では高次元コピュラの習得・開発・応用を行っていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Journal of Multinational Financial Management
巻: 46 ページ: 75-106
10.1016/j.mulfin.2018.05.001
Discussion Paper New Series, School of Economics, Osaka Prefecture University
巻: No.2018-3 ページ: 1-34