本研究では、地方経済の中核をなす中小・零細企業への資金供給源である地域金融機関として信用金庫と信用組合を取り上げ、その経営・財務状況の分析を行った。これらの金融機関は、いわゆる協同組織という組織形態をとっており、株式会社である銀行とは経営目的が異なっている。利潤最大化が第一の目的ではない信用金庫や信用組合の経営における役員・理事の役割は、銀行におけるそれとは異なっているはずである(異なっていると考えられる)。その点について、信用金庫、信用組合の財務データと役員・理事等のガバナンス変数を用いて実証的に明らかにすることが本研究の目的である。 平成28年度~30年度の「全国信用金庫財務諸表データ」および「全国信用組合財務諸表データ」と「日本金融年鑑」から得られた各種データを用いて、利益率とガバナンスとの関係を分析したところ、ガバナンス変数は利益率と関係が薄く、これらの金融機関ではガバナンス構造が利益には関係していないように見えた。ただし、得られた結果は、ガバナンス構造を詳細にとらえたものではなく、役員・理事らの出自にも大きく依存している可能性がある。信用金庫や信用組合では、いわゆる地元の名士といわれる人たちが長期にわたり役員を務めていたり、世襲で役員を継承していたりする場合もあり、「慣習的な」ガバナンスが実行されてきた、または実行されてきていることも考慮する必要がある。その点を分析に入れるためには、役員の出身など出自を丹念に調査して、ガバナンス変数に導入する必要がある。今回の研究では、その結果が得られるまでには至らなかった。
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