本研究の目的は,長寿リスクの分析に向けた新たな死亡率予測モデルの構築とその長寿リスク評価への応用である.昨年度に引き続き,Age-Period-Cohortモデルが抱える識別性の問題に対処する新たなアプローチについて考察した.特に,Age-Periodモデルの代表的な手法であるLee-Carter modelとAge-Cohortモデルを組み合わせるモデル統合について考えた.昨年までは,AICあるいはベイズ・ファクターを加重とするモデル統合を考えていたが,本年度は,より最適な加重を推定する手法について考察した. 本研究を含む研究担当者の業績に対して,第24回日本統計学会賞が授与された.受賞講演(「長寿リスクとベイズ予測モデリング」)では,ベイズ予測モデリングに基づく長寿リスクの評価についての業績を中心に発表を行った.特に,エントロピー最大化原理に基づくリスク中立化法について論じ,その応用として,長寿デリバティブやリバースモーゲージを市場と整合的にいかに評価するかについての議論を行った.その際に,モデル不確実性が長寿リスク評価に与える影響に関する議論を加えた.受賞の際の発表に基づいて,論文(「長寿リスと統計モデリング」を作成し,日本統計学会和誌に寄稿した.また,東京で開催された国際アクチュアリー会死亡ワーキンググループの2019年度大会(International Actuarial Association Mortality Workig group 2019)において,招待講演("Bayesian Mortality Forecasts for Long-Term Care Subpopulations from Limited Data")を行った.
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