研究課題/領域番号 |
16K03752
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
柳瀬 典由 東京理科大学, 経営学部経営学科, 教授 (50366168)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リスクマネジメント / メインバンク / コーポレートファイナンス / コーポレートガバナンス |
研究実績の概要 |
当該年度は,一昨年度,昨年度に引き続き,銀行による事業会社の株式保有が,当該事業会社のリスクヘッジ行動に与える影響を,東京証券取引所上場企業を対象に実証的に検討した。当該年度には,検証期間を2009年度(2010年3月期)から2016年度(2017年3月期)までの会計年度に拡張し,サンプルサイズも8,703に拡張した。 本研究の一貫した主張は以下の通りである。銀行による株式保有は,ヘッジ目的での企業のデリバティブの利用と正の関係にあることが確認された。この結果は,企業のリスクヘッジ行動が,銀行による株式保有を原因とするリスク回避インセンティブによって推進されていることを示唆するものである。他方で,対立仮説である企業の資金制約がリスクヘッジの原動力となる実証的証拠はほぼ確認されなかった。 さらに,本研究では,企業のデリバティブ利用度を被説明変数とした分析を行っているのだが,銀行による株式保有と企業のデリバティブ利用とが正の相関を持つという証拠は,別の解釈,すなわち,銀行によるレントシーキング仮説を否定するものではない。そのため,追加検証として,銀行による株式保有,企業のデリバティブ利用と企業価値との関係についても分析を行った。その結果,銀行の株式保有は,企業価値と負の関係を示す一方で,企業のデリバティブ利用は企業価値と正の関係にあることが確認された。 本年度は,こうした分析結果と解釈について,国際的学術誌への投稿を行う中で,繰り返し指摘されてきた批判,特に,内生性の懸念への対処など,主に技術的な対応に注力するとともに,再度,主要な国際的学術誌への投稿に挑戦した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトの全体目標としては,ファイナンス理論に基づいて,日本企業のリスクマネジメントに関する実態を実証的に検討することにある。具体的には,上場企業を対象に,(1)デリバティブによるリスクヘッジ戦略,(2)保険需要,(3)流動性管理としての現金保有に関する分析を行う計画である。その上で,これら個別のリスクマネジメントを統合した概念である(4)全社的リスクマネジメント(ERM)についても,日本企業の実態把握とともに,可能な限りの実証的検討を行う予定である。 研究助成3年目は,これらのうち,初年度と第2年度に進捗した(1)の研究について,主要な国際的学術誌への投稿を試みた。当初の投稿においては,論文の技術的な未熟さ等への批判から掲載に至ることが難しく,そのため,当該年度は主に,(1)の研究について,査読誌レフェリーからの批判に対応すべく,主に,論文の技術的な対応に注力した。 他方で,主要な国際的学術誌への投稿を繰り返していた(1)の研究に関しては,査読プロセスの第2ラウンドに進むことができたため,その点においては重要な研究上の進捗があった。さらに,当該年度には,(4)全社的リスクマネジメント(ERM)についても一定の進捗があった。具体的には,当該論点に関して当初計画していた定量的な分析の限界を確認した。その代替案として定性的な観点からの研究へと計画修正を行った。具体的には,定性的なデータ収集の機会として,日本の主要な企業のリスクマネジャーとの定期的な事例研究会の組成を進めた。これにより,定量的分析の限界を補完するべく,日本企業のERMの実態調査が可能となると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は以下の通りである。全体目標のうち,早くから取り組んできた(1)デリバティブによるリスクヘッジ戦略については,引き続き,主要な国際的学術誌への掲載に向けての対応に注力する。この点は,本研究プロジェクト全体の質にかかわる問題であるため,極めて重要である。 これに加えて,第4年度は,(4)全社的リスクマネジメント(ERM)に関する実態調査をさらに加速させる。具体的には,日本の主要な企業のリスクマネジャーとの定期的な事例研究会を通じて,日本企業のERMに関する事例(ケース)の作成を進める。 (3)流動性管理としての現金保有に関しては,①その決定要因,②株式所有構造やコーポレートガバナンスとの関係性,③企業価値への影響について,実証分析を継続する。 (2)保険需要については,時間的制約の中で可能な限り,研究を進捗させたいと考えているが,本研究プロジェクト全体の観点からはやや優先度が低いものにならざるを得ないと予想している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年4月に,研究代表者の職場異動があり,新しい職場環境で多くの新規講義を担当するなど,教育面での負荷が予想以上に発生した。また,2019年3月に当該職場を退職(2019年4月よりさらに別の職場への異動)することになり,業務の引継ぎ等,管理業務の負荷も増大したため,当初予定の研究時間の確保が厳しい状況となった。このため,全社的リスクマネジメント(ERM)に関する実態調査を本格的に実施することができなかった。また,研究年度当初から着手してきた「デリバティブによるリスクヘッジ戦略」に関する研究の進捗が,国際的学術誌への査読対応に予想以上の時間を要し,予定通りに進まなかったため,先ずはそちらに注力する必要性が増大した。この点も,別論点での予算消化が進まなかった理由の一つである。 そこで,2019年度においては,2018年度に着手した全社的リスクマネジメント(ERM)に関する実態調査のための日本の主要な企業のリスクマネジャーとの定期的な事例研究会の開催など,定量的分析では見えにくい,日本企業のERMの実態調査への研究資源のシフトを行うことで,当初の研究計画を実質的に進捗させる予定である。また,「保険需要」,「流動性管理としての現金保有」といった残された別論点についても,追加のデータの購入や機器の購入等を進め,研究の進捗スピードを加速させる予定である。
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