研究課題/領域番号 |
16K03755
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
乾 孝治 明治大学, 総合数理学部, 専任教授 (60359825)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 資本コスト / 金利期間構造 / マイナス金利 |
研究実績の概要 |
本研究は,リスクプレミアムの基準として国債市場で観察される金利期間構造を無リスク金利と見なした上で,それに上乗せされる資本コストの期間構造を推定し,それをリスク要因に分解することを目指すものである. 今年度の1つの目標は,分析環境の整備と代表的なモデルによる資本コストの推定であり,それについては準備期間中に取り組んでいた資本コストモデル(Lyle-Wangモデル)について,データ収集と実証分析を行い,その成果についてTemple University 2016 Accounting Conferenceにて発表することができた.しかし,第2の目標である資本コストの期間構造モデルについては,以下の理由で進展しなかった. すなわち,2016年9月に,日本銀行が長期金利操作付き量的・質的金融緩和を導入したことで,長期国債金利が大幅にマイナス状態になり,研究の前提が大きく崩れたのである.資本コストは国債金利を基準として推定するが,マイナス金利を基準としてリスクプレミアムを求めることが,果たして理論的整合性を持つかを検討する必要性が生じたからである.また,本研究では株式評価を扱うが,日本銀行によるETFの大量購入が資本コストの低下を招いているとの予測が容易になり立つ.マイナス金利が証券担保コストに影響を与えていることも事実であり,本研究を進める上で,まず,マイナス金利が株式に与える影響を検討する必要性から,その影響が最も観測しやすい株価指数裁定取引について考察した.現在,そのリサーチプランを立てているところで,今年度中に分析に取りかかる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1の目標については達成しており,第2に目標については前提条件が変更になったことで前進させることができなかったものの,マイナス金利が株式指数取引について与える影響について,実務家へのヒアリングや議論を行い,深く考察することができた.その成果についても既にドラフト論文が完成しており,理論的・実証的な分析を次年度に実施することで,マイナス金利と株価・資本コストの影響として学会発表ができる見通しである.
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今後の研究の推進方策 |
国債のマイナス金利を基準とすることを避けるために,無リスクリターンについてインプライドに決定できるようなモデリングを考える.すなわち,個別銘柄の資本コストを推定した上で,リスクファクターモデルによりその資本コストを分解し,定数項として現れる部分を無リスク資本コストと見なす方法である.また,必ずしも定数項にせず,将来の満期に関する確定的な関数(線形,指数など)を取り込むことで,インプライドな無リスク金利期間構造を決定する方法も検討する.ただし,この方法では資本コストの期間構造を同時に考えることは難しいと予想される. 資本コスト推定モデルについては,これまでのサーベイにより,いくつかの推定方法が候補としてあがっており,それらについて比較分析を行う予定である.また,リスクファクターの候補としては,従来のFama-Frenchを基準としながら,追加的なファクターについて検討する.
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