研究課題/領域番号 |
16K03756
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
戸村 肇 早稲田大学, 政治経済学術院, 准教授 (90633769)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 信用創造 / 貨幣の弾力的供給 / 法貨 / 価値尺度 / 銀行間決済 |
研究実績の概要 |
前年度に終了した「量的・質的緩和」政策の日本銀行の財務への影響の分析に基づき、政府職員向けのセミナーや一般向けの新聞記事の執筆をおこなうことで、研究成果の社会への還元を行った。 また、残りの「資産取引決済と量的緩和政策のマクロ経済効果」及び「税の支払い手段としての貨幣と永続的量的緩和の上限」の二課題についてはモデル構築を開始した。「資産取引決済と量的緩和政策のマクロ経済効果」についてはFreemanモデルを拡張したモデルを一旦構築したが、モデルの柔軟性が低く有用な知見を得られなかったため、より根源的に、貨幣の弾力的な供給が必要になるようなフリクションの構築から作業をやり直した。その結果、財市場と証券市場との間にタイムラグがある場合に、銀行による信用創造を通じた弾力的な貨幣供給が社会の厚生改善をもたらす理論的結果を得た。「税の支払い手段としての貨幣と永続的量的緩和の上限」については、税の支払に限らず、より一般的に「法貨」としての貨幣を理論的に位置づけることを試みた。その結果、裁判所が契約の目的物の質についての契約当事者の同意の有無の識別を完璧に行うことができない場合、通貨単位のような名目価値尺度の導入と「法貨」として貨幣の弾力的供給が社会厚生を改善するという理論的結果を得た。モデル構築の途上で得られた知見について、政府、公開シンポジウム、業界団体の研究会での発表を通じて、社会への還元を行った。 追加として、基盤研究(S)長期デフレの解明(課題番号24223003)において連携研究者として行った銀行間決済システムにおける国債と銀行準備の関係を理論的に解明した論文(「Payment Instruments and Collateral in the Interbank Payment System」)の学術雑誌への投稿・改訂作業を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の予定していた、「量的・質的緩和」政策の日本銀行の財務への影響の分析は前年度までに終了することができた。「資産取引決済と量的緩和政策のマクロ経済効果」及び「税の支払い手段としての貨幣と永続的量的緩和の上限」の二課題については、モデル構築の過程において、やり直しが必要となったが、やり直しの結果、より根源的なフリクションに基づいて貨幣の使用が内生的になされるモデルを構築できた。
|
今後の研究の推進方策 |
「資産取引決済と量的緩和政策のマクロ経済効果」及び「税の支払い手段としての貨幣と永続的量的緩和の上限」の二課題については、モデル構築を終了した上で、日経学会(春・秋)それぞれで発表することを予定している。また、国際学会での発表として、「資産取引決済と量的緩和政策のマクロ経済効果」に関するモデルについては、2018年8月に南カルフォルニア大学で開催されるアジア太平洋経済学会での発表に応募中である。 加えて、銀行間決済システムにおける国債と銀行準備の関係を理論的に解明した論文(「Payment Instruments and Collateral in the Interbank Payment System」)の学術雑誌への投稿・改訂作業を継続し、一流の国際的査読付き学術雑誌での掲載を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
国際学会への論文提出までにはいたらず、予定していた渡航費を使用しなかったため。2018年度は、デスクトップコンピュータの購入、論文の雑誌投稿に関する英文校正費、論文が雑誌に掲載された際のオープンアクセスフィー、国際学会を含む学会報告のための渡航費への支出を予定している。
|