本プロジェクトの第一の研究課題である、「日銀券需要と『量的・質的金融緩和』政策の財政費用」の分析は前年度までに終了している。
「資産取引決済と量的緩和政策のマクロ経済効果」については、前年度に金融資産として商業手形に焦点をあて、銀行による手形割引を通じた信用創造が社会の厚生改善をもたらすようなモデルを作ったが、今年度は中央銀行による商業手形の再割引が金融システムの安定性に必須になるケースの存在証明を理論モデルを使って行い、論文としてまとめ、国際学術雑誌への投稿を行った。「税の支払い手段としての貨幣と永続的量的緩和の上限」については、通貨単位のような名目価値尺度の導入と「法貨」として貨幣の弾力的供給が社会厚生を改善するという理論的結果を前年度に得たが、今年度は、中央銀行が商業銀行への窓口貸出を通じて間接的に法貨の供給を行うことがコスト面で最も効率的な場合、商業銀行による法貨の貸し渋りが起こるケースの存在証明を行い、それを防ぐためには、中央銀行が独占的かつ公的な法貨の発行者であり、また最後の貸し手でもある必要があるという結果を得た。これら二つの研究課題の分析で構築した理論モデルはともに、中央銀行が発行する貨幣が金融資産とともに必要になる経済環境では、必要以上に中央銀行が貨幣を供給しても、他の証券と同様の利回りを持たない限りは需要はなく、その場合、インフレ効果は持たないという含意を得た。
追加として、基盤研究(S)長期デフレの解明(課題番号24223003)において連携研究者として行った銀行間決済システムにおける国債と銀行準備の関係を理論 的に解明した論文(「Payment Instruments and Collateral in the Interbank Payment System」)を国際学術誌であるJournal of Economic Theory誌に掲載した。
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