本年度は、昨年度に引き続き、戦前期の1888年から1936年までの府県別貸出金利データを用いて、戦前の日本における資本市場統合に関する分析を行った。本年度は、特に、Phillips and Sul (2007)のlog t regressionとclub convergence testの結果、1927年以降に府県ごとの貸出金利が4つの収束クラスターを伴いながら異なる均衡金利へと発散し、資本市場が再び分断している現象に着目し、その要因分析を行った。順序プロビットモデルを用いて、1927年以降の4つの収束クラスターの決定要因の推定を行った結果、銀行市場の競争度の代理変数である府県ごとの銀行支店数およびその変化、取引費用の代理変数である金融センターからの物理的距離が4つの収束クラスター形成において強い説明力をもつことが示された。このことは、1928年の銀行法による銀行数の急激な減少が、地方の銀行市場の競争度合の低下、および地域間の銀行支店ネットワークの毀損を通じて、資本市場を再分断化したとする仮説と整合的である。以上の結果は、“Capital Market Integration with Multiple Convergence Clubs: The Case of Prewar Japan”とする論文にまとめ、現在海外の学術誌に投稿中である。また、過年度に取り組んだ銀行企業間距離の外生的な変化が両者の取引関係に及ぼす影響を分析した“Does Geographical Proximity Matter in Small Business Lending? Evidence from Changes in Main Bank Relationships”は、現在海外の学術誌に投稿中である。
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