本年度は後悔が証券市場の効率性に与える影響について考察した。標準的な資産価格理論は投資家が合理的であると仮定するが、本研究は後悔回避的なトレーダーも証券取引に参加するような状況を考察する。構築した証券のモデルでは、内部情報を持つ情報トレーダー、内部情報を持たない合理的なトレーダー、後悔回避的なトレーダーが取引を行う。このような証券市場の均衡では、価格は証券のファンダメンタルズに関する情報のみならず、後悔回避的なトレーダーがもたらすノイズも反映する。そこで、後悔が証券市場の効率性に与える影響を分析するために、本研究はまず証券市場の情報構造に即して、情報効率性の測度を構築した。次に、後悔と情報効率性の関係性を数量的に分析し、以下の結果を得た。後悔回避的なトレーダーの人数が多いほど、証券価格の情報にたいする感応度が下がり、価格に反映される有用な情報の量も減る。また、投資家たちの後悔回避度が強くなるほど、証券市場の情報効率性が低下する。さらに、証券市場のリスクが高い時ほど、後悔による市場効率性の低下がより顕著になる。現実世界の金融危機でしばしば見られるように、証券市場の不確実性が高まると、恐怖、失望、後悔など投資家感情の影響が強まり、その影響で証券価格により多くのノイズが含まれるようになる。その結果として、価格の情報効率性は最も必要とされるときに逆に低下してしまう。本研究で構築したモデルは、このような現象を理論的に分析できる。 本研究は研究期間全体を通じて後悔回避が証券市場に与える影響を考察した。後悔回避下の新しい資産価格評価モデルを構築したうえで、プレミアム・パズル(Premium Puzzle)、平坦な証券市場線(Flat SML)、市場非効率性(Market Inefficiency)などの現象を理論に説明した。
|