研究課題/領域番号 |
16K03759
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
猪口 真大 立命館大学, 経営学部, 教授 (60387991)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ソブリン・クレジット・リスク / ソブリンCDSスプレッド / 対外ショック / 世界金融危機 / 国内金融システム / 新興国 |
研究実績の概要 |
平成29年度はソブリン・クレジット・リスクに影響与える要因を考察した。具体的にはソブリン・クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のスプレッドの変化率を被説明変数とし、国内要因である各国の株価指数変化率と為替レート(対米国ドル)変化率、グローバル要因である米国株価指数の変化率、米国国債利回り、VIX変化率を説明変数として推定を行った。2008年1月8日から2016年3月25日を含む週次データを使用して固定効果モデルとGMM推定量を用いて分析している。なお、米国の量的緩和(QE)の影響および先進国と新興国の違いについても焦点を当てた。 推定結果から、全般的には国内要因(国内株価および為替レート)の係数が有意で予想された符号であった。ただし、新興国では全期間で、先進国では主にQE1の期間において国内要因が有意であった。さらに、新興国では、米国の量的緩和のテーパリングを含むQE3の期間と量的緩和終了後の期間においてグローバルな要因が有意であるとの結果が得られた。したがって、新興国のソブリン・クレジット・リスクは、米国のQEの後半期間からグローバルな要因から受ける影響が大きくなったことが示唆される。 また、前年度に得られたソブリンCDSスプレッドのデータについてカバーしている国と期間が少なかったため、平成29年度はよりカバレッジの広いソブリンCDSスプレッドのデータを入手し、新たなデータ・セットの作成を開始した。なお、このソブリンCDSスプレッドのデータについては、おおむね2000年代半ば頃からの期間がカバーされたものであり、世界金融危機以前からの分析を行うことが可能である。また、収録された国も増加している。 さらに、各国のソブリンCDSスプレッドが対外要因から受ける影響を表す指標について、どのようなものが適当なのかを先行研究を基に検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
進捗状況が計画よりやや遅れているのは、データの収集、推定方法の再検討を行ったことが主な理由である。 当初の計画では、平成28年度に実証分析で使用するデータ・セットの構築を終える予定であったが、実際には平成29年度もデータ・セットに関する作業を行った。これは、平成28年度に得たソブリンCDSスプレッドのデータとは別に、平成29年度に新たにソブリンCDSスプレッドのデータを収集したためである。平成28年度に得たソブリンCDSスプレッドのデータはカバーしている国および期間が想定より少なく、特に期間は2008年以降であったことから世界金融危機発生以前の期間について考察することができなかった。そこで、平成29年度に別のデータベースからソブリンCDSスプレッドのデータを入手することにした。 次に、推定方法であるが、対外要因のソブリンCDSスプレッドへの影響を測る方法を再検討した。これについては、先行研究のサーベイを進める中で、計画段階で想定していたものより多くの手法があることがわかった。このため、平成29年度において先行研究をさらに検討し、当初の計画とは異なる指標を算出して使用することとした。なお、本研究では対外要因のソブリン・クレジット・リスクへの影響の大きさ自体と国内の経済環境との関係を分析するするため、対外要因のソブリンCDSスプレッドへの影響を表す指標の選択は非常に重要である。 以上のように計画に若干の遅れは生じているものの、本研究の最初の推定であるソブリン・クレジット・リスクに影響を与えた要因の推定作業はほぼ終わり、次の実証分析に使用するデータ・セットの作成も開始している。このため、平成30年度中にはおおむねすべての分析が終了して結果を得ることができる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度においては、平成29年度に行ったソブリンCDSスプレッドの影響を与えた要因に関する推定結果をまとめ、研究会等で報告を行う予定である。 さらに、本研究の第二の実証分析である対外的な要因がソブリン・クレジット・リスクに与える影響と国内の経済環境・経済金融システムとの関係に関する実証分析を開始する。はじめに、前年度に入手したソブリンCDSスプレッドのデータからサンプル期間およびサンプル国を決定し、次に、それに応じた各国の国内経済や国内金融市場の関するデータを入手する。データ・セット作成後に推定を行うが、本研究では、対外的な要因がソブリンCDSスプレッドに与える影響をどう測定するかが重要になる。まず、対外的な要因を示す変数として、現時点ではソブリン・リスクにショックが発生した国のソブリンCDSスプレッドを使用する計画である。次に、その対外要因が各国のソブリン・リスクに与える影響を表す指標については、平成29年度に先行研究を検討した結果、自国のソブリンCDSスプレッドと他国ソブリンCDSスプレッドの共変動の値としてDCC(Dynamic Conditional Correction)を計算し、これを用いることとした。DCCにより、2カ国のソブリンCDSスプレッドの共変動を直接的に計算することができ、かつ、時間と共に変化する変数として使用することができる。このDCCを被説明変数として、国内の金融市場の発展度合いや財政状況、成長率がどのような影響を与えているのかを分析する。推定の際は、2008年に発生した世界金融危機の影響や先進国と新興国の違いを考慮するために、サブサンプルを作成して推定を行う、もしくは、ダミー変数を利用して分析する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は新興国のソブリン・クレジット・リスクに関して実証分析を行うことを目的としている。平成30年度は、ソブリンCDSスプレッドと対外要因との関係に対して国内要因がどのような影響を与えるのかを推定する計画であり、各国の国内経済や金融市場に関するデータが必要となる。 一方で、平成28年度に収集したソブリンCDSスプレッドのデータは2008年前後からであり、収録国の数も限られていたため、平成29年度にソブリンCDSスプレッドの別のデータを新たに入手した。このため、データの収集作業が当初の計画より延び、かつ、多くの予算を使用したことから、平成29年度の予算では各国の国内経済に関するデータを収録したデータベースを購入できなくなった。 したがって、各国データの入手時期を遅らせ平成30年度にデータベースを購入することとし、平成29年度の予算の一部を平成30年度の使用額として計上した。したがって、繰り越した予算は、各国の国内経済環境や金融市場に関するデータを収録したデータベースの購入費用の一部に使用する計画である。なお、平成29年度に入手したソブリンCDSスプレッドのデータがカバーする国および期間における各国データが分析では必要になるが、こうした各国の経済データを得ることのできるデータベースは高価であり、平成30年度に使用する研究費の大きな割合を占めることになる。
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