研究課題/領域番号 |
16K03762
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
太田 浩司 関西大学, 商学部, 教授 (70366839)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | レピュテーション効果 / 自社株買い |
研究実績の概要 |
日本における自社株買いの研究は数多く存在しているが、そのほとんどは、米国における先行研究に依拠したものであり、日本独自の自社株買い制度を取り扱った研究は未だ少ない。そこで、本申請研究では、わが国特有の開示制度や買付制度を利用することによって、自社株買いの新たな側面を解明することを目的としている。 具体的には、(ⅰ)自社株買いの達成率の観点から見たわが国におけるレピュテーション効果の検証、(ⅱ)自社株買いの公表が、決算等に関するBad Newsの影響を緩和する役割を果たしているかについての調査の2点について実証的に検証を行っており、当該年度は、(ⅰ)に関する研究をほぼ終了することができた。 なおレピュテーション効果とは、市場が企業の開示する情報を信頼性の高いものであると判断した場合には大きく反応し、逆に低いとみなした場合には反応が小さくなるという効果のことである。本研究では、自社株買いの達成率(実際取得株式数/予定取得株式数)の高さは企業のレピュテーションを高めると考えて、過去の自社株買いの達成率が現在の自社株買いの公表に対する市場の反応に与える影響を、短期で調査している。結果は、過去の達成率が高くてレピュテーションが高い企業ほど、現在の自社株買いの公表に対する市場の反応はより大きくなっており、わが国市場におけるレピュテーション効果の存在を支持するものであった。この本研究の結果は、企業と市場の間には信頼関係が存在しており、企業のレピュテーションを高めることは、企業価値にプラスに作用することを示唆するものといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「自社株買いの達成率の観点から見たわが国におけるレピュテーション効果に関する研究」に必要なデータの入力に際して、過去の同企業のものと類似性があることを発見した。そこで、近年のデータについては、過去データを修正するという方法を用いることで効率的にデータ入力を行うことができた。また、その他の分析に関しても特に大きな問題が生じなかったので、おおむね順調に作業を進めることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、本申請研究の2番目のテーマである、自社株買いの公表がBad Newsの影響を緩和する役割を果たしているかについての調査を進めて行く予定である。 現在までの調査から、自社株買いのアナウンスは、決算発表等と同時に行われることが多く、その比率は全観測値数の半分近くにも達するということがわかっている。また、米国の先行研究からは、同時公表をサンプルから除く研究よりも、同時公表をサンプルに含める研究において市場の反応が小さくなるという興味深い現象が観察されている。このことは、自社株買いが他の情報と同時に公表される場合には、他の開示情報がBad Newsであることが多いということを暗示するものであり、さらには、経営者には決算発表等の内容が悪かった場合に、それが市場に与えるであろう負のインパクトを打ち消すために、Good Newsである自社株買いを同時にアナウンスする動機があるということを示唆していると考えられる。 そこで、本年度における研究では、自社株買いと同時に公表される情報の内容を精査し、果たして、自社株買いはBad Newsと同時に公表される傾向があるのかについて調査する。具体的には、日本では企業の主要な開示情報が、適時開示情報閲覧サービス(TDNet)を通じて公表されているので、TDNetから、決算短信、業績予想や配当予想の修正、特別損失・利益の発生事項等、市場に影響を与えると思われる情報を抽出して、ニュースの特性を判断していく予定である。
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