研究課題/領域番号 |
16K03764
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
万 軍民 福岡大学, 経済学部, 教授 (40423123)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 不良債権 / 不動産バブル / バブルテスト / 不動産購買禁止令 / 過剰融資 / 過剰投資 / 銀行個票パネル / 産業別不良債権 |
研究実績の概要 |
不良債権とバブルを研究した。筆者は中国全国及び35大都市不動産価格対家賃比率の時系列データを用いてバブル検定を行った。全国においてはバブルが検出されなかったものの、35大都市ではバブルが検出された。次に、中国の銀行不良債権率の決定要因に関して、2007~2015の千以上の個票データでパネル推計を行った。不動産価格が不良債権率に有意な負の影響を与えた。さらに、不動産価格の内生性をコントロールするため、部分都市における「不動産購買禁止令」を操作変数として推定しても安定的な結果が得られた。関連の先行研究は二つのみで、日米に一つずつが現存している。日米では不動産バブルが崩壊した後、不動産価格(下落)が銀行の不良債権に負(上げた)の影響に及ぼした。しかし、中国では不動産バブルがまだ崩壊されていないのに、なぜ類似な結果が得られたか、さらなる分析をした。中国の19業種の産業別銀行不良債権率に関してパネル推計をし、不動産価格の不良債権への影響には変わりがないが、製造業の不良債権率が相対的に高いことが分かった。また、「不動産購買禁止令」による不動産空室面積の増大、および、不動産業の投資率と利潤率の低下が確認された。日米ではバブル崩壊によって企業借金や家計住宅ローンの滞納で銀行不良債権形成の主因だった。今の中国では、バブルが進行している中、住宅ローンは暫定的に安全なので銀行不良債権の起因にまだなっていない。しかし、建材等の不動産関連企業は銀行過剰融資によって過剰投資を行い、不動産価格の上昇率が期待するほど実現されなければ、利潤率低下を招き、過剰融資の返済が滞るので銀行不良債権の主因になった。よって、中国不良債権の形成要因について、日米と違うメカニズムを初めて解明した。今の中国では、筆者が理論的に提示した「ソフト・ランディング」が急務である。当研究の英文原稿は米国誌に条件付き採択されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画では、平成28年度に日本の不動産バブルが家計に対する影響について、「全国消費実態調査平成元年、6年、11年、16年、21年」の個票データで検証する。しかし、データ利用申請のため、予定より時間がかかった。平成元年を除いて、4回分のデータは平成29年度より使用可能となった。予定より若干遅れたが、平成29年度では研究計画で考案した仮説が日本にどれほど当てはまるか検証する。 研究計画中のバブルの理論研究を行った。バブル発生について、既存文献では解明されていない部分がある。バブル成長率が安全資産利子率より速いことが実証的に知られているが、理論的にまだ解明されていない。文献の均衡経路におけるバブル成長率が安全資産利子率と同じだ。この場合の投資家にとっては、バブル資産にしても安全資産にしても同じ収益になる。言い換えると、安全資産もバブル資産も、粗利子率の速度で同じ速度で成長するので、バブルは一種の資産インフレであり、現実のバブルを捉えられなく、危機的な状況を反映しにくい。筆者は、リスク中立的投資家を想定し、バブル崩壊リスクを評価するバブル・プレミアムを導入することで、この問題を解決した。バブル・プレミアムは、情報非対称性による外部金融プレミアムや危険回避によるリスク・プレミアムとも違って、バブルが崩壊する特質を捉えるものである。バブル・プレミアムによって、均衡経路におけるバブル成長率が安全資産収益より速いことが証明された。しかも、資産市場が効率的であるほど、バブル・プレミアムが高く、バブルが起こりにくくなることも証明された。市場効率性を測る新指標として資産価格に占めるファンダメンタルズ比率を提示した。また、バブルを発生させない税制や土地所有制度を研究した。バブルが発生した場合のランディングも研究した。研究原稿は米国誌に2回の改定終えて3回目の投稿をし、今は審査結果待ちである。
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今後の研究の推進方策 |
バブルの予防とランディングの理論研究について、学術誌に掲載されるまで、改定を重なっていく。 平成29年度は、日本の不動産市場に対して、不動産バブル検定を行い、家計部門への影響を「全国消費実態調査平成元年、6年、11年、16年」の個票データで検証する。焦点は二つに当てたい。一つ目は、不動産バブルの発生と崩壊が家計の貯蓄と消費への影響を明らかにする。二つ目は、不動産バブルの発生と崩壊が家計のフローの所得分配、および、ストックの資産の分配に与える影響を明らかにする。この二つの点について、精密なミクロデータに基づく精密な検証は今回が初めてである。 不動産バブルと家計行動、および、銀行不良債権の形成について、日米中のみならず、世界銀行と国際通貨基金並びに国際決済銀行(BIS)が発行した国別のマクロデータを用いて、パネル推計を通して、マクロ的なエビデンスが得たい。不動産バブルは、先進国や途上国、そして、今と過去を問わず、空間的にも時間的にも普遍的なものなので、日米中から得られたエビデンスは、普遍的な意味があるならば、世界範囲でも当てはまるはずである。従って、日米中に必要なバブル対策が、世界的にも必要となると提言できるように研究を進めたい。
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