研究課題/領域番号 |
16K03769
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
井原 基 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (00334144)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 中国 / 東南アジア / 流通 / マーケティング / トイレタリー産業 |
研究実績の概要 |
本研究計画は、中国・東南アジアのトイレタリー産業および化粧品産業を対象とし、当該地域における外資企業や現地企業のマーケティング、特にマーケティング・チャネル戦略の歴史的変化について調査研究するものである。以下、30年度の研究実績について、当該年度に行った調査と公表した成果の2面から説明する。 まず調査については、(1)日本のライオンとタイのサハパット社との合弁会社、タイライオンにおけるチャネル戦略についての研究を9月の現地調査を中心に実施し、(2)ベトナムにおけるユニリーバ、P&G、花王、ユニチャーム、地場企業のチャネル戦略の比較についての研究を3月の現地調査を中心に実施した。(1)の調査では、サハパット社のタイ人社長への聞き取り調査を実施するとともに、サハパット社の歴史に関する研究書、サハ・グループ初代オーナーの口述録などの現地語による資料も入手し、現地側の視点からの分析によって先行研究にない新たな知見を得ることができた。(2)の調査では、外資系メーカーからだけでなく現地の小売業や卸売市場での現地視察やインタビュー調査も行うことができ、各社のチャネル戦略の実態について確実性の高い証言を得るとともに、各社の比較をクリアに行うことができた。この他、マンダムのアジア展開についても継続的に調査を行っている。 成果物については、昨年度に調査を実施した花王の中国、タイ、インドネシアにおけるチャネル戦略の歴史的変化についての論文を査読付学会誌に掲載し、タマサート大学の研究者との共著であるタイにおける花王とライオンのマーケティングや知識移転プロセスを比較した英文の共著論文も公表した。 以上のように事例研究を着実に積み重ねる一方で、アジアにおけるマーケティング・チャネルの変化を総合的に分析するための理論的フレームワークについても研究し、将来的に研究成果を体系化する準備も進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように30年度はアジアでの2度の現地調査(タイ及びベトナム)を実施し、それぞれの調査において新しい事実発見があり、近い将来の学術論文の公表に値する調査結果を得ることができた。成果物の面でも29年度の調査結果を基にした複数の論文の公表に踏み切ることができている。さらに、これらと合わせて各事例研究を横断した分析フレームワークや比較分析の準備を進めている。 なお本研究計画も3年目が終了し、当初の計画と比べるといくつかの変化が生じている。まず、分析のフレームワークについては、各企業のアジアにおける市場開拓ないしマーケティングという大きな単位からマーケティング・チャネルに焦点を絞りつつある。対象についてはトイレタリー産業と化粧品産業の両方という当初の計画から、トイレタリー産業を中心とし、化粧品産業は男性化粧品分野に絞るという方向に絞りつつある。トイレタリーと化粧品の産業特性が異なることと、資料やインタビュー調査へのアクセス可能性の2点が、このような絞り込みを行う理由である。次に調査対象時期については戦前期の花王石鹸の展開について一旦資料を集めたものの、欠落が多く纏まった研究成果にしにくい状況があり、各企業の比較の時期を揃えるためにも戦後に集中しつつある。他方、調査対象国は中国、タイだけでなくベトナムにも拡大している。以上のような変化は、「アジアに進出した日本・アジアの複数の企業について、マーケティングの面をクローズアップして比較研究を行う」という当初の研究目的を変えるものではなく、むしろ研究目的をよりクリアな形で実現するための変化と捉えている。 以上のことから、将来的に事例研究の成果を体系化するという目標に向けて、研究課題の遂行は着実に進展しているということができる。
|
今後の研究の推進方策 |
31年度は、30年度に現地調査を行った2つの研究結果について、学会発表などの機会を利用してブラッシュアップし、学術論文の公表に結び付つける。並行して、中国における地場系トイレタリーメーカーのチャネル戦略の比較や、男性化粧品メーカー(マンダム)の東南アジア・中国展開についての研究調査を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
来年度以降に多額の使用が見込まれるため、今年度は科研費の使用額を抑制した。今年度遂行した研究の必要な経費の一部は、他の研究予算より補った。
|