研究課題/領域番号 |
16K03772
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木越 義則 名古屋大学, 経済学研究科, 准教授 (00708919)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 世界貿易 / アジア域内貿易 / 海運 / データベース / 地理情報システム(GIS) / 太平洋貿易 / 交通インフラ / クラスター解析 |
研究実績の概要 |
19世紀後半は産業革命の動力機関の発明が交通機関にも応用されることで、海と陸の交通革命がもたらされたことが知られている。これまで海運におけるこの動態の定量的把握は、主に貿易統計によって行われていた。近来、船舶の運航記録のデータベース化が進み、海運統計からのアプローチが進んでいるが、その整理は未だ大西洋貿易に偏っている。本研究は、その情報空白を埋めるためにアジア・太平洋地域の主要な港湾都市で発行されていた経済新聞から、船の出入港記録を抽出しデータベースを作成している。また、港湾と内地市場との関係を知るために、中国の郵便ネットワークから国内流通構造と港湾までの経路を計測するためのデータベース作成を行った。 昨年度12月時点で中国郵便ネットワークについてのGIS化を研究協力者の補助を得て作成し、次の段階である船舶のデータとの総合的解析に入る準備段階まで進んでいる。また、船舶のデータのGIS化についても1873年と1913年の2年分を作成できる水準まできている。 GIS化の予備的作業として、研究協力者の城山智子(東京大学)とともに1913年の船舶データについてクラスター解析を行い、海運ネットワークの階層的構造の解析の初歩的なアプローチに入った。その知見については、3月に京都大学東南アジア研究所内にて本科研も共催として参加したワークショップで報告を行い、国内外の研究者から有益なコメントを得た。この研究報告を通じて、より多くの海運情報についても寄せられ、データベース拡充の資料的可能性についても知見を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で最も労力、時間と資金を必要とするデータベースの作成作業が計画以上に進展している。計画当初は上海・香港・シンガポールの3つの主要港湾の1851年、1873年、1913年、1933年の4カ年の作成を目標とし、初年度内には1903年までを見込んでいたが、1913年まで終えることができた。これによりデータベースのデザインと修正も順調に進み、より多くの港湾と時代に対応できる準備が整いつつある。とりわけ新聞から得た船舶情報を、各国の政府あるいはロイズに代表される海上保険会社との史料と照合することで、より精度の高いデータベースの基礎が確立できたことは大きな成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今後も代表者が所属する名古屋大学にて研究補助員2~3名の協力により経済新聞からのデータ入力を進める。その際、当初よりも入力作業が進捗しているので、対象とする港湾を広げることで、アジア地域からアジア・太平洋地域にまで射程に入れたいと考えている。具体的には、バンコク、ボンベイ、バタヴィア、シドニー、ホノルル、サンフランシスコ、神戸、横浜、マニラにも同様の資料が得られるので、データベースの拡充をはかるつもりである。他方で、完成した部分から適宜、地理情報の専門家の協力により、デジタル地図の作成も進める。さらに初年度に初歩的に行ったクラスター解析をより展開することで、近代におけるアジア・太平洋地域の海運インフラのネットワークの解明に接近する。そのための打ち合わせを2回、研究報告を1回行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の打ち合わせ、資料収集のために旅費を予定していたが、本年度は名古屋でのデータベースの入力に力を入れていたため、データ分析のための大きな会議を実施する必要性がなかったことにより、おおむね電子メールと電話でのやりとりで解決できたことによる。 その分研究補助者を2名から3名に1名増員し、それに合わせてノートパソコンを1台増やした。その結果、物品費と人件費・謝金それぞれが増額した。しかしその増額分は、旅費に予定していた金額よりも下回ったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
データベースの拡充について資料的な制約がかなり克服された結果、より多くのデータの入力が可能となっている。そのため研究補助員の数を増やすか、作業時間を増やすことでいっそうのデータベースの充実のための人件費として使用する予定である。
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