研究課題/領域番号 |
16K03773
|
研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
三ツ石 郁夫 滋賀大学, 役員, 理事 (50174066)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ドイツ / 地域経済 / 中小経営 / 中間層信用 / 経済省 / 貯蓄銀行 / 信用協同組合 / ERP特別資産 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、1963年7月に公表された西ドイツ連邦経済省による調査報告書『中小企業への信用供給について』の作成過程に関わる連邦経済省の会議議事録ならびに政府・中間層諸団体・金融機関などの関係資料を分析することによって、西ドイツ高度経済成長期の中間層金融の実態と政策を明らかにすることである。H28年度は、ドイツ連邦文書館での資料収集、その後の資料分析によって、次の2点を明らかにした。 第一に、1963年報告書に先立って、すでに1955年11月、連邦経済省は省内に「営業中間層信用問題作業委員会」を設置し、ここに手工業、卸・小売商、中小企業など中間層関係4団体および貯蓄銀行、信用協同組合、民間信用銀行など金融4団体の代表をメンバーとして9回の会議を重ね、そこで各方面の調査や提言を踏まえて、中間層信用を進めるための諸方策について協議した。この作業部会は1956年10月、報告書を公表した。 第二に、この報告書を受けて、1958年3月、連邦経済省は、各金融機関による資金供給、ドイツ連邦銀行の信用政策、ERP特別資産資金の活用、また信用保証政策や資本市場政策、中間層経営支援策などを提言し、上記報告書の内容を実際の政策等に移すことに着手した。1963年の報告書は、こうして50年代末から60年代初頭において展開した中間層金融の実態を聞き取りや調査に基づいて検証したものである。 本研究は、地域分散的な経済発展を支える重要な担い手であった中間層経営が市場競争力を高める過程を金融面について明らかにするものであり、H28年度に収集した連邦経済省文書は、その実態、政策措置、政策思想を総合的に分析するための貴重な資料である。H28年度は上記の第一の論点について解明することを中心にして研究分析をすすめてきたが、本年度中にそれらについて論文としてまとめる予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ドイツ連邦史料館における資料収集は順調に進んだが、そこで収集した資料は2,000ページを超えるものであり、それらは、1955年の会議設置から1963年の調査報告書公表までの数多くの会議議事録、中間層はじめ各団体や公的機関からの意見や報告、統計を網羅している。今回収集した資料はそれらを解明するための第一級の資料であるといえる。本研究課題である、1950年代後半から60年代前半までのドイツ中間層信用問題は、ドイツの戦後復興における中間層企業の役割や資本主義発展における営業中間層の位置の問題だけでなく、産業金融や競争政策、さらに広く経済政策・金融財政政策にかかわる当時の西ドイツの政府政策思想など、非常に多くの論点を含んでいる。収集資料も論点が多岐に分散し、また問題領域別に系統だって整理されていない。そのため、資料分析に多くの時間を要しており、論文としてまとめることが遅れる状況となっている。
|
今後の研究の推進方策 |
すでに28年度のうちにかなりの資料を集めているが、研究をさらに進める上で足りない点は次の3点である。 第一に、上記概要においても指摘した「ERP特別資産」は、戦後西ドイツが外国から受けた経済援助に由来するものであり、外国からもたらされた商品供給に対する支払が積み立てられたものである。この資金は、貯蓄銀行貸付とともに、50年代後半からの中間層信用において非常に重要な役割を果たしたのであるが、それに関する日本語研究は管見の限りまだない。その具体的な仕組みや実態に関する資料もあまり知られてないが、連邦文書館に保存されているので、その資料収集が課題である。 第二に、中間層信用や中間層支援政策では、連邦政府だけでなく、州政府が大きな役割を果たした。そこで、中間層経営が地域的にもっとも広く展開していたノルトライン・ヴェストファーレン州を対象にして、同州公文書館(所在地デュイスブルク他)を訪問して関係資料を集める必要がある。 第三に、中間層の利害や要求は、先の経済省作業委員会での発言や陳情書など政府提出資料で明らかになるが、場合によってはそこに現れてこない要求などを解明する必要がある。それらに関する資料を集めるためには、たとえば手工業の全国組織である「ドイツ手工業全国連盟」(所在地ベルリン)などを訪問することも検討する必要がある。 上記のすべての課題を実施することは難しいので、時間と優先度を考慮しつつ実施し、H28年度の活動を引きついで、まず第一の点から研究成果としてまとめることにしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品費の残額については、書籍の出版時期が遅れたためとパソコン、カメラ等の価格が予定を下回ったため。旅費の残額のうち、外国出張については日数が予定を下回ったことと、国内については図書館を通じた資料請求によって不要になったため。人件費については、当初は収集資料の整理のための人件費を計画していたが、実際の収集資料の文字が薄く見にくく、それらを読める専門人材を見つけられなかったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
残額は全額を物品費に割り振り、引き続き書籍購入するほか、プリンターを購入する。
|