研究課題/領域番号 |
16K03773
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
三ツ石 郁夫 滋賀大学, 役員, 理事 (50174066)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 戦後ドイツ / 中小経営 / 手工業 / 金融構造 / 信用問題 / 公的政策 / 貯蓄銀行 |
研究実績の概要 |
戦後西ドイツ高度経済成長期における中小企業信用の実態と貯蓄銀行等の信用政策、そして連邦・州政府の公的政策展開を分析するために、引き続き資料収集と分析を進めた。本年度においてはドイツ西北部のノルトライン・ヴェストファーレン州立文書館ならびにドイツ連邦文書館で資料収集を行い、これまでに集めた資料と合わせて分析することによって中小企業信用の実態と公的政策展開の問題を中心に次の3点を明らかにした。 第一に、1950年代から60年代前半にかけての個別中小経営の信用需要は、新規機械導入等による設備投資や経営拡大、戦後の都市再開発や宅地開発に伴う消費財関連企業の設備改修や新規設立、そして農村や東西ドイツ国境地域等における産業立地分散化に関わる地域構造計画を目的としており、金融機関や政府はそれに対応する信用政策を展開した。 第二に、連邦政府の中小経営向け信用政策は、これまでの研究枠組みにおいては1955年から始まると時期区分していたが、本年度収集した資料の分析によって、すでに1952年から手工業等の要求に基づいて「中間層プログラム」として生産性向上・経営合理化のために展開していた。 第三に、以上の実態と政策展開を金融構造全体のなかで再評価すると、戦後西ドイツの中小企業信用問題は1950年代前半までの長期資金の量的逼迫緩和からそれ以降の貸出利率や担保など信用条件の支援へと変遷し、また政策的にも競争力強化による経営拡大支援の経済政策と都市計画や地域開発を支援する社会構造政策へと多様化した。 研究開始当初に構想していた中小企業信用の実態と政策の分析枠組みは、今年度の研究によって、1950年代前半の経営合理化、同年代後半の政策展開の本格化と多様化、そして60年代前半の中小経営の競争力問題へと再構成される。この新たな見通しのもとに資料・文献の分析をさらに進めて次年度中に研究成果をまとめる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定していた資料収集活動はおおむね順調に進んだが、前年度の2000頁を超える資料に加え、本年度においても収集資料は1500頁を超え、また内容と論点も多岐にわたっているため、資料分析に多くの時間を要している。また論点のなかでは、とくに中小企業信用の資金供給源として、これまで検討していた貯蓄銀行や信用協同組合銀行の長短資金からなる民間資金だけでなく、連邦と州の政府予算のほか、新たにマーシャル援助を引き継ぐ「ERP特別資産」と旧ドイツ軍部保有残留物資と米占領軍保有余剰物資の売却収益金を原資とした公的な資金である「STEG資金」等が1950年代前半から重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。こうした各種金融支援と金融構造の枠組みを、信用を必要としている手工業や小売業、中小工業などの中小企業の経営実態と合わせて総体的に捉えて戦後ドイツの中小企業信用問題を評価する必要性が生じており、現状では研究成果全体の見通し、研究史的位置づけと意義等を再精査しているところであり、結果として進捗状況が遅れることになった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究活動に基づいて、次年度においては進捗状況の遅れを取り戻しつつ次のように研究を進める。 第一に、戦後中小企業信用に関する実態と政策の分析枠組みを見直すことによって、連邦政府のSTEG資金等の1950年代前半までの関係資料、州政府の中間層支援政策(理念と具体的措置)に関する資料をさらに収集することが必要となった。後述のように、次年度繰越額を確保したので、上記の資料収集を目的として海外調査を行う。訪問先は、ドイツ連邦文書館(所在地コブレンツ)、ノルトライン・ヴェストファーレン州立文書館(所在地デュイスブルク)を予定している。またこれまで時間的制約のために調査を断念していた「ドイツ手工業全国連盟」(所在地ベルリン)の訪問を再度検討し、可能な場合は、手工業等の中間層経営の実態に関する資料の収集を試みる。 第二に、上述のように信用の実態と政策の枠組みは1950年代前半の経営合理化支援、1950年代後半の信用展開の本格化と目的・資金源の多様化、そして1960年代前半の中小企業の市場競争力強化の流れで展開したことが明らかになってきた。こうした中小企業信用問題を、当時の社会的市場経済の政策理念および競争政策の秩序枠組みと戦後復興から高度経済成長へと転換しつつある金融構造のなかで位置づけて研究論文にとりまとめる。 第三に、上記研究論文のなかでも、中小企業信用に関わる金融構造や貯蓄銀行の信用政策、公的信用政策の立案過程、政策理念の評価・位置づけなどの部分を中心として、次年度内に英文論文またはワーキングペーパーにまとめ、研究代表者と交流のあるドイツ・マンハイム大学のJ.Streb教授らと当該テーマに関して意見交換し、その後の共同研究の方策を協議する。 以上を通じて、研究課題全体を総括し成果を取りまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
連邦政府STEG資金資料等の1950年代前半までの関係資料、州政府の中小経営支援政策に関する資料および手工業等の実態に関する資料は、研究進捗過程で新たに重要性が明らかになってきたもの、または時間的制約のために未収集のままであったものであり、課題研究遂行のために当該資料を収集して分析しておくことが不可欠であるとわかってきた。そこで当初の研究計画では予定していなかった海外調査を次年度に実施することを計画し、そのために本年度の使用額を抑制した。次年度は、この繰越額を活用してドイツ連邦文書館(所在地コブレンツ)、ノルトライン・ヴェストファーレン州立文書館(所在地デュイスブルク)を訪問する。手工業全国組織である「ドイツ手工業全国連盟」(所在地ベルリン)の訪問調査は時間的制約と繰越額の状況を見て判断する。
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